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| ◆ 沖縄球撞き日記 ◆ | ||
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今年も読売オープンの季節がやってきた。 読売オープンとは全国からプロが、いや、国内のみに留まらず韓国や台湾からも続々とプロが集結する日本ビリヤード界のビッグイベントである。一昨年は豊橋を中心に、去年は、名古屋、豊田、岡崎、知立などで、そして今年は名古屋を中心に行なわれる。 この読売オープン、私にとって色々と思い出のある試合だ。 初めて生でプロの試合を見たのが一昨年の読売オープンだ。テレビでしか見たことのないトッププロたちを、初めて生で見ることが出来た。コスモ所属のあの四人、奥村プロ、高橋プロ、利川プロ、川端プロのことである。 テレビで活躍している人たちが目の前にいる! 手を伸ばせば届くところにいる! 彼らのそばにいるだけで興奮したことを、今でも昨日のことのように良く覚えている。 私はこのときはまだビリヤード誌を購読していなかったし、インターネットでビリヤード系サイトばかりを巡回している訳でもなかった。そんな訳で、さほどプロのことについて詳しくはなかった。ただ、テレビでこの四人がリーグ戦で戦う、という番組をたまたま見ていたので、この四人の名前だけは知っていた。 と言う訳で、私が初めて見たプロの試合はブラウン管の中だった。 ある日、ケーブルテレビのスポーツ系チャンネルでビリヤードの試合が放映されることを知った。ビリヤードは好きなので、早速見てみることにした。 ゲームはナインボールだった。ナインボールならルールを知っている。9番を入れたら勝ちという単純なルールだ。 最初は暫くただ漠然と見ていた。やっぱりプロは上手いなー、全然外さないなー。そんなことを考えながら見ていたのだが、どうも様子が違うことに気が付いた。9番コンビにいける配置でも、コンビにいかないのである。しかも、フリーボールをもらっても、やっぱり9番コンビにいかないのである。 あぁ、勿体無い。俺なら9番狙うのに。 そんなことを考えながら見ていた。 暫くして、何かおかしいことに気付いた。それは、四人の中でも見るからに年長の奥村プロのプレイである。 不思議なことに、最後の9番は殆ど必ず簡単な距離のストップショットで終わっているのだ。 どんなに8番と手球が離れたところにいても、手球は8番をポケットに入れたあと、何故か手球と9番とポケットが真っ直ぐになるところで手球が止まるのだ。 何週か見ているうちに、もっと凄いことに気が付いてしまった。 この人たちのやっているゲームはナインボールと違う。私がやっているナインボールと違う。全く別のゲームだ。 攻めと守り。攻めのときは怒涛の攻め。守るときは完璧なセーフティ。そして何より彼らの球は緻密であり、精密であり、大胆であり、豪快だ。持てる技術と知り得る戦略を駆使して手球を操っている。私が今までやっていたナインボールと、可笑しいほど似つかないゲームをやっている。いや、これが本当のナインボールなんだ・・・。 更に、もっと凄いことに気付いてしまった。ブレイクで1番が隠れてしまった場合、手球をちょんと撞いてもファールにならないのだ! 知らなかった・・・。 次はどうするんだろう? 次はどうするんだろう?? 次はどうするんだろう??? と、食い入るように画面を見つめた。 プロが構えに入ると、わくわくし、プロが球を撞くと驚き、感動した。 どちらかというと、試合を観戦するというより、マジックを見ているような感覚で見ていた。 私は、素晴らしいマジックと、素敵な種明かしに釘付けになった。 昔見たプロの試合、そのテレビの中にいた、あの人たちが今、私のそばにいる! 私のそばでしかめっ面をして煙草を吸っている!! こんな至近距離で・・・。 どきどき♪ テレビのスターがそばにいて、興奮しない訳がないっ! 直接見ては失礼かと思い、どきどきしながらちらちらと横目で見る。 う〜ん、かっこいい♪ あの右手から繰り出すショットが魔法を生むのね♪ あっ、鼻から煙が! 鼻の煙までがかっこいい♪ あっ、煙が私のそばを通り過ぎるわ♪ すーはー、すーはー。(←変態?) 一昨年の読売オープンはこんな感じだった。 そのとき貰いまくったサイン色紙は大切に家の壁に飾ってある。 去年も勿論、読売オープンを観に行った。 そして、ちょっとした事件が起こってしまった。 私は一日目の予選を大人しく、黙って、しかし微妙にはしゃぎながら観戦していた。 じーっとして観ているうちに、じーっとして観ているうちに、何だか段々・・・、あぁ、球が撞きたくなってきた・・・。 いやぁ、本当、不思議。どうしてじーっと球を観ていると、球が撞きたくなるのだろう。それも、生半可なものではなく、「すっげー球撞きたい!」とか「球を撞かずにはいられない!」という程の大きな欲求。そんな訳で、私のヴォルテージは最高潮。 そして、その日の晩、私にとって初めてのマスワリが出た。 きっと私の中に、読売オープンで戦う選手たちの素晴らしいイメージが残っていたから? それとも、最高潮になったヴォルテージの作用? どちらにしても、読売オープンを観に行ったからマスワリが出たのだ、と今でも思っている。 そんな訳で、私にとって読売オープンとは他の試合とは違い、非常に思い入れの深い試合なのだ。 その読売オープンが、今年も遂に始まった! 名古屋市内のそれぞれの予選会場に、続々とプロやアマ、役員や運営、そして観戦者が集まる。 開会式、ルールの説明などが終わり、運営の掛け声によって一斉ブレイクがされ、会場中が大きな拍手に包まれた。 ・・・と思われる頃、私は予選会場とは全く違うところにいた。 沖縄のビーチで全身こんがり真っ黒けになるまで身体を焼いていたのだ・・・。 今年の読売オープンはどんな試合が繰り広げられるのだろう。今年は誰が優勝するのだろう。アマでは誰が出場するのかな。 そんなことを考え、胸を膨らませていたのに・・・。 ずーっと前から、それこそ一年も前から、この読売オープンを楽しみにしていたのに・・・。 同じ日にとんでもない行事がブッキングしてしまった。 それは、社員旅行。 しかも、行き先はよりによって沖縄。 あ゙〜、近場の岐阜や長野とかだったら絶対に読売オープンを優先させるのに、何で今年に限ってナニユエに沖縄? あ、いや、それよりも、ナゼ読売オープンと同じ日? 普通、読売オープンとぶつからないように日程ずらさん!? などという私の戯言が会社の上層部に届く訳も無く、私は苦渋の選択を迫られた。 読売オープンか? 社員旅行で沖縄か? 「読売オープンは来年もある。しかし、沖縄にタダで行けることは、そうは無い。」 そう思って沖縄を選んだ。(ま、実際は我ら社員の積み立てによるものなのでタダではないのだが、それにしても格安の金額で沖縄に行けるのは間違いない。) 今年の読売オープンの観戦は、妻に託そう。 私は断腸の思いで沖縄を選んだ・・・。
沖縄出発前日の夜。 慌てて荷造り。 さっきから背後で、「どうしてもっと前に用意しておかないの!?」と何度も妻が言う。 「ごめん、沖縄から帰ってきた後でちゃんと叱られるから、それより海パンはどこ?」 「ったくもー! だから、前もって用意しておけば・・・!・・・!・・・!」 ぶつぶつ文句を言いながらも、私と一緒に海パンを探す妻。 流石、私の妻だ。何だかんだ言っていても、私が困っていれば協力してくれる。 前もって用意しなかったのは、本当に悪かったと思っている。 今度は気を付けるよ。 「あっ、あったよ、ほら。」 そう言って妻は海パンを手渡した。 「ありがとー。本当にごめんねー。ありがとー。」 そう言いながら受け取る。 「・・・、なにこれ。なに、このひも。あれ? これ、海パンじゃねー。お前の水着じゃん。」 「それ、はいても良いよ♪」 「・・・。」 流石、私の妻だ。こんなときでもお茶目を忘れていない。 折角の妻のお茶目を流してしまっては、私の沽券に関わる。 さて、妻のお茶目に対抗するにはどうしたら良いのだ? 本当に持っていくべきか? それとも、「真面目にやれ」と叱るべきか? でも、それじゃあ、逆ギレみたいだし・・・。 「サイズが合わないかもしれないし、試着してみるよ」と言うのはどうだろう。 いや、妻のことだ。こんな迂闊なことを言えば、本当に力ずくで着させられそうだ・・・。 う〜む、どうすれば・・・。 妻のビキニを両手で目の前に広げ、悶々と悩んでしまった。 こんな調子で荷造りをしたので、あまりはかどらなかった。 当日の朝。 眠い。妻のビキニを見て悶々としていたせいだろうか。 無理矢理起きて、朝飯を食う。 昨日用意した荷物を抱え、妻の運転する車に乗り込み、高速バスのバス停まで送ってもらう。 そして、名古屋空港直行バスに乗り込む。 空港に着いて、会社の人と合流。チケットや印刷物を受け取り、飛行機の時間まで待つ。 搭乗時間が来たので、皆で一斉にぞろぞろと乗り込む。 私も、断腸の思いで沖縄を選択した割には、スキップで機内に乗り込んだ。 もうすぐで沖縄だ♪ 青い海と珊瑚礁が私を待っているぜ♪ 機内に入ったら、お決まりのアナウンスが流れる。 「那覇の気温、15℃」の言葉で、機内騒然。 あちらこちらで「オレ、長袖持ってきてねー」という話し声が聞こえる。 勿論、私も半袖しか用意しなかった。 沖縄って、意外に寒いんだー。 そんな乗客の不安などお構いなしで、飛行機は大空へ飛び立った。 眠っている間に那覇空港に着いた。 外に出てみたら寒くなかった。15℃ということはない。もっと気温は高いだろう。それよりも、じめじめ感が気になった。かなり湿度が高い感じだ。 今度はホテル行きのバスに乗り込む。 バスガイドさんのアナウンスで、初めて沖縄は梅雨だと知った。 昨日まで良いお天気だったらしい。でも、今日から雨らしい・・・。 確かに、なんとなく雲行きが妖しい。 空港から少し離れたら、やっと沖縄に着たんだという実感が沸いてきた。 行き交う車は全て沖縄ナンバー、時折見掛ける米軍車両。 遠くを見れば海が見える。海の色が何となく違う。 街路樹や植え込みの植物も何か違う。何となく、南国っぽい。 途中、首里城と植物園に寄り、そしてホテルに向かった。 バスに乗っている間はずーっと窓から「ビリヤード」の文字がどこかに無いか探した。 そうこうしている内に、バスはどんどんホテルに近付く。 ホテルの近くは特に入念に見回したのだが、無かった。 バスは遂にホテルに着いてしまった。 残念・・・。 宴会ではオリオンビールをたらふく飲みながら、沖縄独特の曲をたっぷり聴いた。 新入社員の裸踊りを見て、腹筋がちぎれそうなほど笑った。 宴会も終了。希望者は二次会へ行き、疲れている者は部屋へ戻った。 私は、相変わらずホテルの近くにビリヤードが出来るところがあるのかないのかが、気掛かりだった。 ゲームセンターでもいい。プールバーでもいい。多少汚くても、多少高くても構わない。 あぁ、どこかにビリヤード台、置いていないかなぁ・・・。 そんなことを考えながら、ホテルの中を探検することにした。 まだ、部屋のある5階と、正面玄関やフロントのある2階しか見ていない。 1階には、お店や喫茶店やレストランがあるらしい。 1階に下りてみた。 そこで、信じられないものを見てしまった! 壁に 『 ← Game Billiards → 』 と書いてあるではないか! それを見た瞬間ダッシュ! そして、遂に発見! 神々しく光り輝くビリヤード台がそこにあった!! しかも2台も!! う、うれしいーーー♪ 台を見て、ラシャを見る。あまり使われていない感じがする。程度はそれほど悪くない。 壁に料金と申込方法が書いてあった。料金は、1台1時間2000円。 げ。・・・、う、う〜ん。 いや、贅沢を言ってはいけない! ビリヤード台があるだけでも素晴らしい!! このホテルを選んだ人に大感謝だ!! しかし、やはり自分1人で撞くにはかなり痛い金額だ。 1時間2000円ということは5時間撞いたら1万円ということだ。1万円もあれば、普通20時間ぐらい撞けるぞ! う、う〜ん、やっぱり痛い。 そんな訳で、知っている人に出会う度に、片っ端から声を掛けた! 「どう? ビリヤードやらない!?」 一体何人に声を掛けただろうか。はっきり言って反応は悪かった。そりゃそうだ、折角沖縄まで来て、どこでも出来るビリヤードをわざわざやることはない。しかもこの高い金額で。全くもっておっしゃることはごもっともでございます。 仕方が無い、力無く部屋に戻った。そして、ベッドの中で思った。 「あ〜、球撞きて〜。」 二日目の朝。 午前中はホテルのビーチでたっぷり遊んだ。 潮風が心地良い。海の水はすっごく綺麗♪ 最高! 黒くて巨大ななまこさえいなければ。 思ったより、地元の女性が少なかったのが残念だったが、それでも充分目の保養になった。 むふー♪ 雨が時々ぱらぱらと降ったが、このときはまだ、それほどではなかった。 午後からはパラセール。 船で沖まで出て、パラシュート付きの椅子に座らされ、船が全力疾走し、30mぐらい大空に上がるのだ! 簡単に言えば、船で凧揚げをするような感じ。 上がる瞬間はやはりびびったが、上がってしまえば意外に怖く無かった。 ただ、すっげー気持ち良かった♪ 着船時は船に突っ込むような感じだったので、結構怖かった。 パラセールが終わってビーチに戻ったら、いよいよ雨が継続的に降ってきた。 仕方が無いのでホテルへ帰ることに。 時間はまだ午後3時。 夕食の時間まで、まだまだたっぷりある。しかし、それまで何もやることが無い。 さーてと、何をしようかな・・・。 あっ、そう言えば今日は読売オープンの一日目だった。 今頃、熾烈な戦いを繰り広げているんだろうな。今日はどんな対戦カードがあったんだろう。やっぱ、見たかったなぁ、読売オープン。 それにしても、沖縄に来てこんなに暇な時間が出来るとは。 う〜、ビリヤードがやりて〜。 球撞きて〜・・・。 ホテル内のお店でお土産物を見る。 お店は何件もあるらしい。フロントのある2階に大きなお店が1つ、1階には小さなお店が3つもある。 先ず最初に2階のお店をぐるりと見て回った。 ここでも、知っている人をビリヤードに誘ってみた。(くどくない程度に。)反応はやはりイマイチ。 次にビリヤード場に行ってみる。 誰かが撞いていることを期待したのだが、誰もいなかった・・・。 1階のお店を回っているときも、お店を出る度にビリヤード場に行った。 やっぱり、誰もいなかった・・・。 誰かやってないかなぁ、やっている人がいたら仲間に入れてもらおうかなぁ。 そんなことを、ずーっと考えていたが、いつ行っても誰もいなかった・・・。 部屋にいても退屈なので、ビリヤード台の椅子に腰掛け、煙草を吸っていた。 しょうがねーなー、1時間2000円は辛いけど、1人で撞くかー。 諦めかけていたその時、信じられないことが起こった。 待ちに待っていた人達がやって来たのだ! ビリヤードやりましょうか、と言いながら、4人もの人が集まって来てくれたのだ! うー、うれすぃー♪ 早速フロントへ行きビリヤード台の使用を申し込んだところ、受付はここではなくスポーツデスクです、と言われた。 あっそ。 スポーツデスクへ行きビリヤード台の使用を申し込んだ。 人数を伝えて、キューを3本と球を借りた。 「前金でお願いします。」 え? あ、そうなの? じゃぁ、取り敢えず2時間で。 「3360円になります。」 へ? や、安いですね。 「ホテルご利用の方は1時間1600円です。」 あっ、そうなんだ〜。そうならそうと書いてくれなきゃ♪ 当然延長になるだろう、ということも考えて、取り敢えず私が一括で立て替えることにした。 さぁ、これで全てが揃った。 台とキューと球と、そして面子! 私はなんて幸せ者なのだろう♪ 足取りも軽やかにビリヤード場へ向かった。 さあ、1台で5人撞き。 となると、何をしようかな・・・。 やはり、ナインボールの方が馴染みがあるだろう、と思い、急遽ルールを制定した。 名付けて「ジャパンテキサスルール」! ルールは至って簡単♪ 殆どUSナインボール。 ただ、点球が9番のみではハンデがつけにくいので、私は9番のみが2点、他の人は9番2点、5番7番は1点、サイドは全て倍、とした。 ファール後のややこしい処理も2出しも無し。ファールで落とした球もそのまま。でも、点球だけはフットスポットに上げることにした。 ジャパンのようなややこしい点数計算も簡素化し、純粋に「自分が落とした点球の合計=自分の点数」とした。 早速じゃんけんをして順決め、私は2番手になった。 台自体は悪くない。 球はワックスが掛かっていなかったが、まぁ、問題無し。 ただ、高温多湿のため、ラシャがひたすら激重だ。 これは、台の置いてある1階ロビーには空調がかかっていないためだ。 今の沖縄は梅雨ど真ん中。 外は雨。 しかも無風。 その上、椅子が3脚しかなく、座れない人は台の周りを取り囲んでいるから、余計に暑いは蒸すは・・・。 でも私はこの上なく幸せを感じていた。 汗だくだったが、幸せだった。 お腹を汗がつたわるのを感じながら撞いた。 ちょっとでも4人にビリヤードは面白いと、そう思ってもらおうと、真剣に撞いた。 4人が「こんなの当てるのが精一杯、狙っても入らないよ」と思うような遠いカットも入れた。 嫌らしい振りで、しかもポケットまでの距離が非常に長いショットも、静かに入れた。 激重ラシャなので押し引きが全然出来ず閉口したが、無理矢理ひねってポジションした。 コンビも入れた 縦バンクも入れた。 これはまぐれではない、狙えばこんな風に入れることも出来るのだ、と説明し、自ら実践した。 入れのない1番に手球を当て、激しいひねりで手球を3クッションさせて穴前の9番を狙った。 これは残念ながら数ミリ差で当たらなかったが、今までで一番大きな歓声が上がった。 そのうち「これはどうすればいいの?」とか、「(フリーボールの手球を)どこに置くのが一番いいの?」という質問が出るようになった。 その度にみんなで一緒に悩んだ。 右振りなら手球は左に進む、左振りなら手球は右に進む。 厚い球は手球があまり動かない、でも薄い球は手球が良く転がる。 手球がクッションにぶつかると勢いが弱くなるから、クッション手前10cmのところに止めるよりも、クッションにぶつけてから10cm転がしたほうが楽。 そんなことを一つ一つ説明したあと、出来るだけ自分で考えさせた。 いつもイメージ通りに撞ける訳ではないのでみんな苦戦していたが、イメージ通りに手球が止まったときはかなり嬉しいらしい。 「見ろよ、見ろよ! ぴったりじゃん!」 私も一緒になって喜び、笑い、そして褒めた。 楽しい時間と言うものはあっという間に過ぎるもので、予定していた時間を大分オーバーしてしまった。フロントで申し込んだ時間よりも既に40分ほど長く撞いていた。 まぁ、もっとも、最初から盛り上がれば延長するつもりでいたのだが。 それにしても、ここは本当に暑い。 私は平気なのだが、他の人たちに体力の消耗が見える。タイミングを見計らって切り上げることにした。 ちょうど球をトレイに並べ終わった頃、隣の台で中年の男性が2人、ゲームを始めた。 1人は初心者っぽい、もう1人は・・・。 私は何度も後ろを振り返りながら、台を後にした。 スポーツデスクに戻り、 「どうもありがとうございました。」 と言いながら、キューと球をカウンター越しのお姉さんに渡した。 「お疲れ様です。(笑顔)」 ここで、てっきり延長料金を精算されるものだと思っていたので、無言で黙ってしまった。 「・・・。」 「???(笑顔)」 「あ、すみません。40分ぐらいオーバーしていると思うので、精算したいのですけど。(汗)」 「あっ、結構ですよ。お金はもう頂いていますし。(笑顔)」 えっ、マジ!? ラッキー♪ 得した〜♪ でも、どうして? サービスしてくれたのだろうか。それとも、1時間未満は全部切り捨てなのだろうか。 う〜ん、・・・。 まっ、いっか♪ 前払いの料金は私が一括して立て替えていたので、ここで精算した。 もし、楽しんでいたのは私1人で、他の4人はつまらなく思っていたら・・・。真剣に撞いている中、そんな不安が頭をよぎったこともあったが、それは全くの杞憂だった。 4人からそれぞれビリヤード代だけでなく、賛辞と感謝の言葉を頂いた・・・。 ありがたい。本当にありがたい。 元はと言えば私のわがままで始まったビリヤードなのだが、こんなに感謝されるとは。 贅沢かも知れぬが、更にわがままを言わせてもらうならば、この中で1人でもいいからビリヤードを始める人が出てくれたら、きっともっともっと嬉しい。 夕食の時間までちょうど1時間ある。取り敢えず、一旦部屋に戻り休むことにした。 エレベーターを降り、長い廊下を歩き自分の部屋に向かう。そして部屋のドアゆっくり開けながら、私は180度方向転換した。そして今来た道を、てくてくと戻った。 だってぇ〜、私たちと入れ違いでビリヤードを始めたあの2人、すっげー気になるんですもん!(笑) 気になることは直ぐに解決しないと精神衛生上良くないしね♪ それに千載一遇のチャンスかも知れない。次はいつ会えるか分からないのだ。 ビリヤード場を立ち去るときに一瞬だけだが2人のフォームを見た。1人は初心者ぽかった。もう1人は高い姿勢とサイドストローク。キャロム出身の年輩の方に時折見られるフォームだ。 一体どんな球を撞くのだろう。きっと、見た目の年齢とフォームから察するにかなりのベテランではないだろうか。 その人の球が見たくて見たくて仕方がなかった。 自然と足早になった。 まだ2人はそこにいた。 良かった〜、と一安心。 プレイの邪魔にならないようにしながら、さらりと自然に空いている椅子に座り、おもむろに煙草に火を点けた。そして2人のプレーをゆっくりと見ることに。 1人は素振りをするキューが左右上下に動いてしまっており、ストロークが不安定。 もう1人のサイドストロークの男性はフォームが安定しており、非常にショットが鋭い。 素晴らしいプレイにはついつい声が出てしまう。 「ナイスショット!」 何回か声を掛けているうちに、ストロークの不安定なおじさんが話し掛けてきてくださった。 「良かったら私の代わりにやります?」 「いやいやいや〜、そんな〜、悪いですよ〜。」 「いやぁ、随分やったからもう疲れちゃって、それにこのおじさん強いし。」 「分かりました! そういうことならばやりましょう!」 こんな感じで私も参加することに。(笑) わーい、いよいよ強いおじさんと撞けるぞ〜。ドキドキ。 そのとき、誰かの携帯電話が鳴り響く。鳴っていたのは強いおじさんの携帯。 そして、長い電話。 電話が終わるまで、ストロークが不安定なおじさんと撞くことになった・・・。 2ゲームほど終わったところで、いよいよサイドストロークのおじさんと対戦することになった! ブレイクしてもいいよ、とのこと。 頭を下げ、遠慮なくブレイク権を頂くことにした。 私はブレイクのとき、右足を思いっきり後ろ方向に蹴り上げる。いわゆる「蹴り足」というやつだ。今このブレイクをすると、確実に私のビーチサンダルは空飛ぶビーチサンダルになる。 場合によっては周辺の通行人、またはホテルに甚大な迷惑を及ぼすかも知れない。 ぽいっぽいっと、邪魔にならないところに脱ぎ捨てた。 裸足になって、遠慮なくフルパワーブレイク! 思いっきりキューを長く撞き出した! そして、左手の親指の付け根を火傷した・・・。 あたたたたた。(学習能力無し) ふと、あることに気付いた。 サイドストロークのおじさんは私の顔を見て、なにやら悩んでいるようなのだ。 はて? どうしたのだろう? 暫くして、おじさんが口を開いた。 「・・・、○○でビリヤードしたことある?」 「へ? 岡崎の○○ですか? ありますよ。ありますけど、どうしてですか?」 「あなた、岡崎の人でしょ。」 「へっ!?!?!」 本当に絶句した。 「ど、どうして私を知っているんですか!?」 確かに私は岡崎市民。 それに、岡崎の○○というビリヤード場に行ったこともある。 何故、ナゼ、それを知っているのだろうか? 確かに最近、私は相手のことを知らないのに、相手は私のことを知っている、という出会いが増えてきた。私のホームページの影響だろうか。 しかし、まさか沖縄まで来てそんなことがあるとは! ひょっとして、私のストーカーか何かだろうか・・・。 どきどき・・・。 サイドストロークのおじさんは、次にこう続けた。 「どっかで見たことのある顔だなー、と思ったら、思い出した。あなたが○○で撞いているの、見たことある。自分もそこで撞いているし。」 「えっ!? そうなんですかっ!!」 おじさんはストーカーではなかった。 それどころか、私と同じ会社の人だということが判明! それから、話がはずんだ。 私は球よりもおじさんとの話に夢中になった。 私がおじさんと同じ空港バスで乗ったので、岡崎に住んでいるのだと思ったということ。(私は同じバスにおじさんが乗っていることに気付かなかった・・・。) 昔はJPBAの会員であったということ。(これにはマジで驚いた!) 試合で戦ったことのあるプロの話。 Tプロの話。 昔からTプロは強かったらしく、でも1度だけ試合で勝ったときの話を聞かせてくれた。 「Tプロはもう結婚されましたよ」 と私が言ったら、物凄く驚いていたのが印象的だった。(余りの驚きように、こっちも吃驚した。) そして、おじさんは15年前に球をやめたということ。 今は月に1回、奥さんと撞いているだけだということ・・・。 余りにも興味のある話ばかりだったので、初対面なのに、プライベートなことまでずけずけと質問してしまった。 おじさんは私の失礼な質問に対し、非常に気持ち良くお話を続けてくださった。 ゲーム中でのこと。 おじさんが引き球をしようとしたら、ミスキューしてしまった。 先球までの距離が短かったこともあって、手球はちゃんと先球に当たり、先球はクッションに入った。 おじさんは 「ファールです。」 と言った。 すかさず私は、 「大丈夫です。セーフです。」 と言った。 「? あ、そうか。今はミスキューはセーフになったんだっけ。随分甘いルールになったね。今では何でもありだね!」 おじさんがブレイクでスクラッチ、私が1番を入れる穴がなかったのでセーフティ、おじさん1番に当てるもののスクラッチしてしまったとき、おじさんに 「2ファールです。」 と言った。 おじさんは、最初、きょとんとしていたが、突然思い出したように、 「2ファール?ああ!そうか!2ファールか!!わっはっはっは!!2ファール言われたのは何年振りだろう!?」 と、おじさんは笑った。 私もつられて笑った。 おじさんは、とても楽しそうに笑っていた。 夕食後もまた2人で撞いた。 蒸し暑いホテルのロビーで、色んな話をしながら撞いた。 2人とも汗だくで、Tシャツはぐっしょり濡れた。 不快指数は100近くあったと思うが、おじさんのお蔭で、とても気持ちの良い沖縄の夜を過ごすことができた。
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