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| ◆ 試合でプロと初対戦 ◆ | ||||||||||||||||
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1月8日火曜日 今日は第二火曜日、オークランド豊田のビギナーズカップの日である。 何とかして行きたい。勿論、出場するためではない。妻が出場するので応援したいのだ。そのためには早い時間に帰らなければならない。これが大問題。最近は特に忙しくて残業続き。定時であがるなど、夢また夢。 さて、どうしようか。今日はどんな作戦で帰ろうか・・・。 仕事中に色々と思索を巡らせる。 今日は年末年始の長期休暇が明けて二日目。昨日は有給取得推進日という日で、結構多くの人が有給を取って休んでいた。今日から殆どの人が出勤するものだと思っていたのだが、今日も随分人が少ない。事実、私のグループの約半数の人が休み、仕事にならなかった。 聞いたところによると、どうやら年末年始の連休中に風邪を引いてしまった人が休んでいるらしい。 そんな訳で、早く帰っても全然問題無し!という状況。 私の心配は杞憂となった。嘘のようにすんなりと早く帰ることができた。 こんなこともあるんだ。 来週の私が出場する予定の月例の日も、こんな風にすんなりと早く帰られたら良いな・・・。 オークランド豊田に着いた。 おー、おー、やってるやってる。 おや?先月で卒業宣言をした人たちもいるぞ?私と同じく、誰かの応援に来ているのだろう。 近くにいた知っている人たちに挨拶をし、暫く立ち話をする。 妻の姿は近くにない。どこかで試合中なのだろう。 おっ、店長さんを発見。 椅子に腰掛け、いつものように対戦リーグ表を書いているようだ。 店長さんにも挨拶をしながら、こそーっと、リーグ表に妻の名前が無いか探す。 「としおさん、来週の月例は出れます?」 「あー、勿論出たいんですけどねぇ、仕事の状況によっては、ひょっとしたら出れないかも知れません。」(名前どこだろう) 「あのですねー、来週の月例にプロが来るんですよ。」 「はぁ、そうなんですか。」(これでもない、あれでもない・・・。) 「出来たら来て下さいねー♪」 「はい。プロって誰ですか?」(あっ、これかな?) 店長さんはここでにわかには信じられないような凄い言葉を発した。 「・・・。・・・! ???」(へ?へ???) 吃驚して店長さんの顔を見る。 「そのプロが月例に来るんですか!?」 「はい♪」 「ということは、月例に出場する、ということですか!!??」 「はい♪」 「ぜっっっっったいに来ます!何があっても来ます!!」 「プロは7セットです。頑張ってくださいね♪」 「はいっ!!」 一瞬、脳みそが処理能力をオーバーしてしまった。店長さんの言葉を理解するのに時間がかかってしまった。そのぐらい、すぐには信じ難い言葉だった。 月例にプロが出場するだなんて、しかも、それも、日本のトッププロが出場するだなんて・・・。 おおおーーー、マジーぃ?すげーーー!!! すぐさま近くにいた知り合いの元に走り、この超ビッグニュースを伝えた。 なぁなぁ、プロが出場するんだって・・・! 自分でも、自分自信が興奮していることが分かった。だって、このニュースを聞いて興奮しない訳がない! おおお、あのプロが、来週になったら遠路遥々このオークランド豊田の月例に出場するためにプロがやってくる!! う〜〜〜ん、・・・、すげーーー!! むふ♪ むふ♪ むふふふふ♪ ふぬ。・・・。ふんぬ!ふんぬ!!ふーーんぬっ!!! 鼻息が荒い私の元に妻がやってきた。 どうやら最初の試合が終わったらしい。 早速、この私の興奮を伝えよう。 「おっ、試合どうだった?」 「今日は全然ダメ・・・。」 「・・・、あ、そ、そうか・・・。」 この感動を伝えようと思ったのだが、なんだかそんな感じではないらしい。 妻の背中から怪電波が出ている。近付いたらケガしそうだ。いや、絶対にケガする。きっと、黒コゲになる。 ・・・ビッグニュースはちょっと後にしよう。 私の鼻息は、シュー、という音を立てて、普通に戻った。 1月15日火曜日 今日は第三火曜日である。オークランド豊田の月例の日。 何とかして行きたい。勿論、出場するためだ。それに今日はプロが来るので、何としてでも出場したいのだ!そのためには早い時間に帰らなければならない。これが大問題。最近は特に忙しくて午前様続き。定時であがるなど、夢また夢のそのまた夢。 さて、どうしようか。今日はどんな作戦で帰ろうか・・・。 仕事中に色々と思索を巡らせる。 仕事始めからもう一週間が経っている。風邪で休んでいる人はもういない。休みボケもすっかり取れている。どんどん仕事のサイクルが順調に回り始めている。ここで自分だけ定時退社するのは至難の業。 さて、どうしよう・・・。 う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・。 う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・。 どうしよう・・・。 あぁ、もう6時50分だ。これ以上遅くなったらエントリーに間に合わない。 う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・。 う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・。 どうしよう・・・。もうネタが無い・・・。 う〜ん・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・、よし、こうなったら正面突破だ!うだうだ言い訳しても仕方がない!ずばって言えば分かってくれる筈!上司に直談判だ!! うりゃあああ!! さささささ。 「私の業務の次の納期はいつですか!?」 「明後日だけど。」 「分かりました!明後日までに必ずやりますので、今日は早く帰らせてくださいっ!!」 「まぁ、守れればいいけど。」 「それではお疲れ様でしたっ!!お先に失礼しますっ!!」 さささささ。 ダッシュ(+少しのスキップ)で会社を後にした。 すたこらさっさのさ〜〜〜♪ それにしても、正面突破、やってみるもんだなぁ。 会社の駐車場に着いた。車に乗り込み、キーをイグニッションに差し込む。そして、躊躇無く一気にエンジンを掛ける。ヘッドライトを点けると同時にメーターパネルも明るく輝いた。ダッシュボードの時計を見たら午後7時。 瞬時に私の脳みそがオークランド豊田までの所要時間を計算する。同時にギヤを入れ、アクセルを踏み込む。 ここから自宅まで距離にして20km。40分で行ける。しかし今は渋滞が起き易い時間帯。ここで渋滞係数25%を足し込む。よって自宅までの所要時間は50分。キューを取りに戻る時間を5分、自宅からオークランドまで20分、合計75分!あっ!エントリー締め切りの8時に間に合わない! ・・・。マジ?どうしよう・・・。 道路に出て信号を三つ超えたところで早速渋滞にはまった。次の信号を見ると右折矢印が出ている。本当は直進したいのだが、ハンドルを右に切って車のいない右折レーンに入り右折した。多少遠回りになるが、さっきの赤信号は長いのだ。それに上手くいけば渋滞回避にもなる。あくまで上手くいけばの話だが・・・。 少し細い道を暫く走る。あと500mほど走れば、元の道に戻れる。私はこのとき祈っていた。実は、この先に踏み切りがある。その遮断機が下りていないことを祈っていた。 徐々に問題の踏み切りが近付いてくる。そして遂に踏み切りが姿を現した。遮断機は見事に下りていた。 かーんかーんかーんかーん。 交互に光る赤い灯を凝視する。 早く開け〜、開け〜、開け〜。 無意味なことと知りつつ、しかし、それでも念を送らずにはいられない。 早く開け〜、開け〜、開け〜。 開いた! 先頭の一台が通った。 再び高らかな音が鳴り響いた。 ゆっくりと遮断機は下りた。 無情だ。 かーんかーんかーんかーん。 ハンドルを握り締め、体を前後にゆすってみる。次は上下にゆすってみる。あー、じっとしてられない! 無意味なことと知りつつ、しかし、それでも体を動かさずにはいられない! ああああああー、あっ!開いた!! やっと踏み切りを通過したぁ〜、良かったぁ〜。 元の道に復帰出来た。ここで、再び時間を計算する。 現在の時刻は7時20分。 しまったぁ、渋滞回避が思いっきり裏目に出た。あのまま我慢して渋滞の列に並んだとしても、15分ぐらいで通り抜けられたのにぃ・・・。 ただでさえ時間ぎりぎりなのに、5分もロスしてしまった。 う〜ん、どう考えても間に合わないかも。 しかーし!7時40分までに家に着けば何とかなる!筈・・・。 幸運なことに、その後は渋滞らしい渋滞はなかった。 快調に車を走らせる。う〜ん、快調快調♪ しかも、さっきのロスタイム5分を挽回することにも成功した。 午後7時35分。 家まであと信号3つのところまでやってきた。ここから家まで約3分。よし!何とかなる!!と思ったのだが、赤信号で止まってしまった。 停車している間、何気なく周りを見回す。 ん?おや?何か変だ。こんな位置で停車するとは・・・。 家の近くの道は流れが良いので、赤信号で停車するとしても、もっと信号に近いところで停車するはずだ。こんなに信号から遠いところで停車したことはない。 良く見たら、7、8台先で大型トラックがハザードを出している。どうやらあのトラックが原因らしい。おおかた反対車線にあるジュースの自販機でジュースでも買っているのだろう。まったく〜、片側1車線の道なのに困るな〜。 暫く待ってみるが一向に動く気配が無い。身体を伸ばしたらぎりぎり信号機が見えた。信号は青になったが再び赤になった。そして、青になり、赤になった。その間1mも前に進めなかった。 おいおいおい、マジですかぁ〜。ちょっと頼むよ、トラックの運ちゃん、これはちょっとシャレになんないよ〜。 交差点の状況を知ろうと思い、今度は少し窓から頭を出して前を見たら・・・、何だか様子がおかしい。ぎりぎり横断歩道が見えるのだが、その横断歩道の真ん中に人がいる。暗くて良く分からないが、確かに何人かいる。その人たちの中心に倒れ込んでいる人がいる。 後ろからサイレンの音が聞こえてきた。救急車のサイレンだ。反対車線を走って私の車を追い越し、交差点のど真ん中で停まった。救急隊員が慌しく降りた。 この風景を見て自分の眼前で何が起きているのか、やっと理解することが出来た。どうやら誰かが横断中の歩行者をはねたらしい。 う〜む、それでさっきから車が1mも進まない訳か・・・。 でも救急車も到着したことだし、間も無くこの渋滞は解消するだろう。 と思っていたのだが、救急車は交差点のど真ん中から動く気配が全く無い。 完全な通行止め状態がまだまだ続く。 信号が赤になり、青になり、赤になり、青になった。 そして更に、赤になり、青になり、黄色になったり、赤になってみたりして・・・、おや、あれは何色だろう? あれ、信号がぼやけて見えるよ。 えーん、えーん。 午後7時50分。 信号の色はもう何回変わっただろう。相変わらず救急車は交差点のど真ん中に鎮座している。 鼻水をすすりながら、家で待つ妻にメールを打つ。 『モウダメダ.マニアワナイ.』 震える親指を送信ボタンに当て、ゆっくりとボタンを押し込んだ。その瞬間、サイレンの大音響が鳴り響いた。そして、救急車は交差点の真ん中から立ち去ってどっかへ行った! 一台、そしてまた一台と交差点を車が通過。そして!私の車もゆっくりと前に進むことが出来た!! 家に着いたのは7時55分。 家の前に車を停めた瞬間、玄関から妻が飛び出してきた!(ちょっと吃驚した。) 妻の両腕から、おにぎりとお茶とキューケースを受け取った。 「頑張ってね♪」 私はすぐさま出発した。 エントリー締め切りまであと5分!かなり難しい。間に合わないかも知れない。しかし、ここで諦めてはならない。不可能かも知れないが諦めてしまったら本当に不可能になってしまう。ひょっとしたら間に合うかも知れない。万に一つの可能性に一縷の望みを掛けるのだ。 さぁ、間に合うか間に合わないか?! 瞬時に私の脳みそがオークランド豊田までの所要時間を計算する。 いつもは自宅からオークランドまで20分かかる。その道を5分で走らなければならない。ということは、いつもは時速60kmで走るから、その4倍スピードを出さなければいけない。私の車が出さなくてはならない速度は何と時速240km!うわっはっはっは!!そりゃー、無理だわー!!ムリムリ。不可能不可能。 携帯を取り出し、オークランド豊田に電話を掛ける。 「すみませーん、今日は月例の日ですよね。あのですねぇ、実は事故渋滞に巻き込まれちゃって、そちらに着くのが10分ぐらい遅れてしまうんですけど、でも、どうしても出場したいのですが・・・、お願いできないでしょうか?」 駄目で元々だ。今の自分の状況と、月例に対する熱意を電話にぶつけた。 そしたら、10分ぐらいなら、ということで待ってもらえることに! やったーーー!!! うっうっうっ、良かったよぅ・・・。 本当に、何度諦めかけたことか・・・。 諦めないで良かったよぅ・・・。 本当に嬉しい! 本当に嬉しい!! 本当に嬉しい!!! そんなに急いで運転することもない、そう思い、少し速度を緩めた。 もうじきで、月例だ。 あー、やっぱ、プロが出るんだったらプロに当たりたいなぁ。 プロと当たるまで負けなければ良いんだろうけど、それが一番の問題だな・・・。 やはり、くじ運か・・・。 プロと同じブロックの番号を確実に引くしかないな。 あー、お願いです、プロと当たりますように。 よっしゃ!やっぱここは実力で勝ち進むよりも、くじ運だな。 くじ運、くじ運。 くじ運、くじ運。 あー、どうかプロと当たりますように。 そんなことを考えていたら、段々緊張してきた。 午後8時10分 予定通り(?)にオークランドに着いた。 慌てて店内に駆け込み、お店の人に参加費を払いながらお礼の気持ちを述べた。 いよいよくじ引きである! よっしゃー、頑張るぞー!! 辺りを見回す。 どこにもくじなんて無い。 もう、とっくにくじ引きは終わってしまったらしい・・・。 し、しもうた・・・! 10分も遅刻してきたんだから、当然と言えば当然・・・。 さあ、私は一体どこでプロと対戦できるのだろう? 予選で当たるか?それとも当たらないか? どきどき・・・。 こそーっと、対戦表を見てみた。 ・・・、おっ、私の名前を発見。 そしてプロの名前は・・・、どきどき・・・、おおおっ! こんな偶然があっても良いのだろうか!? な、なんと・・・、 私の最初の対戦相手は・・・、Tイさんという人。 う〜ん、知らない・・・なぁ。 恐らく初対戦の人だ。 B級の人らしい。 次に、プロの名前はどこにあるのかなぁ、と探したら直ぐに見つかった。 な、なんと、私の名前の隣の隣にあった! しかも、私が最初の試合で勝てば、次に当たるのは恐らくプロだ!! 因みにプロの対戦相手はB級の人。勿論、アマチュアの人。 プロには厳しいハンデが課せられているが、それでもB級に負けるなんてことはまず無いだろう。 つまり最初の試合にさえ勝てばプロと当たるのは確実! やったーーー!!! うー、1回戦は絶対に勝つ。 そして、プロに当たる! ほんで、プロは私が倒す! がおっ!! いよいよ予選1回戦開始。 私も相手もB級なのでお互い4セット先取りになる。 おじぎをしてゲームスタート。 最初はかたく1セットを取ることができた。9番でもちびらずに撞けた。ふむふむ、幸先が良いぞ♪ しかし、次は外してはいけないところで外してしまい、そのまま相手に9番まで取りきられてしまう。 あっという間に追いつかれ、1−1の同点に。 そのあとも、大事な場面で外して相手が取りきるという展開。 たまに相手が9番を外しても、その9番を再び私が外すという始末。 勝ちたい、と言う気持ちだけが空回り。 終わってみれば、1−4で負けてしまった・・・。 プロと試合で対戦できるという、この貴重なチャンスを逃してしまった。 何やってるんじゃ、俺は・・・。 悔しい・・・。 悔しくて、悔しくて、悔しかったので、対戦者に礼をしたあと一人残って、こっそりと外した配置を練習した。 ちくしょ、ちくしょ、チクショー。 何でこんな大事な球を外したんだ。 そんなことを思いながら、2、3球だけこっそりと練習した。 しかし、これでプロと戦うチャンスが完全になくなった訳ではない。 敗者復活で勝ち上がれば良いのだ! ここから先は本当にもう負けられないけど、今度負けたら本当にもう終りだけど、でも、勝ち続けていけば決勝トーナメントに進出できる。 そうすれば、きっと、どこかでプロと当たる筈。 椅子に座って試合を待つ。 そこで知り合いに会う。 ビリヤードの試合を通じて知り合った人だ。 彼から衝撃的な話を聞いた。 「ビッグニュースがあるよ。」 「ビッグニュース?って何?」 「それにしても、惜しかったねぇ〜。これに勝てばプロと対戦できたんでしょ。」 (ぴくっ。)「あ、ああ、そうだね。・・・。・・・・。・・・うー。あーあ!チクショー!プロを倒したかったぁ〜!!」 「さっき、あそこで凄い形相で練習していたもんね。」 「クヤシー!!!」 「でも、プロも負けたよ。まさか負けるなんてねぇ。でも良かったね。」 「クヤシー!!!!うがっ!がるる!」 「・・・。」 「るぅ・・・。・・・。? ???へ?今、何てった?プロも、1回戦、負けたん?」 「そう。だから、次の対戦相手はプロだよ。」 「・・・。へ?何?ほんとに?」 その話は本当だった。プロは1回戦で負けたのだ。 1回戦でプロが負けるだなんて全く予想していなかった事態だ。 うひょー! やったーー!! まさかプロが私のために敗者側で待っていてくれようとは!ありがとうございます、プロ!! 私も1回負けた。プロも1回負けている。ということは、お互い、もう後がない。次の試合、私かプロのどちらかがゲームオーバーということになる。 ふふふふふ。 私がプロにとどめを刺そうではないか。 むふふふふ。 もうじきプロと戦える。 そう思ったら、何だかそれだけで緊張してきた。 余計なことは考えないようにすればするほど、色んなことを考えてしまう。 自分で自分にプレッシャーをかけるような、そんなことを考えてしまうのだ。 (全力を出し切らないと負けるぞ。) (ベストを尽くさなければならないぞ。) (あとで後悔するような球は絶対に撞くな。) いつもは考えないような、余計なことまで考えてしまい、ますます緊張してきた。 手が震えている。 足も、何だか地についていないような感じがする。 突然、不意に記憶が甦った。 昔、工事中のビリヤード場の壁に書いた落書きのことを思い出した。 壁に力強く書いた、あの落書き。 あれは確かにあのときの私の夢だった。 そうだ、そうだ、そうそう。 そういえば、そんなことがあった。 それは、今から約1年前のこと・・・。 家から近いところに新しいビリヤード屋さんが出来ることをインターネットで知った。 オープン前で工事中だが見学OK、というようなことがホームページに書いてあったので早速見学に行った。 ホームページにある地図のお陰で、お店はすぐに見つかった。 お店の前にそーっと車を止めた。 車から降りて、そーっと入り口に近付き、こそーっとドアを開けてみた。 中に入ると、広い空間が広がっていた。 そこはいかにも改築中の工事現場。 足元には、木の切れっ端やおが屑にまぎれて大工道具が散乱しており、息を吸うと埃っぽいような、木の良い香りのような匂いがした。 接着剤のような匂いもした。 誰もいないのかな、と思いきや、遠くに脚立に乗って作業している職人さんを発見。 向こうもこちらに気付いているようで、私の方をじーっと見ている。 「あのー、ホームページで見学に来てもいいと書いてあったので見学しに来たんですけど・・・、お店の人はいますか?」 「私ですけど。」 これが私の行きつけのビリヤード場の店長さんとの初めての出会いだった。 店長さんはとても話し易い人で、初対面だとは思えないほど話が弾んだ。 そして、今日この日にここへ来た記念に工事中の壁に将来の夢をマジックで書いた。 『試合で一度でいいからプロに勝つ!としお』 それを見た店長さんが一言。 「3点。」 へ?3点? しかも10点満点の3点ではない。100点満点の3点だ。 つまり、夢が小さ過ぎるとのこと。 一度プロに勝っちゃったらそれでいいのか?勝ったあとはどうするの? きつーいお言葉。しかし、ごもっとも。 しかし、書いた文字の大きさは誉められた。(上記の文章を2mに渡って書いたのだ!(笑)) 今思えばプロと戦いたいと言う私のこだわりの原点は、あの落書きだったのではないかな、と思う。 何気なしにその場で思い付きで書いたつもりなのだが、実は思い付きなんかではなく潜在的にずーっと持ち続けていた自分の夢なのかも知れない。 新しいビリヤード場の工事も終わり開店し、そのお店に通うようになった。そして約1年が経った。 色んな人と知り合って、A級の人とも沢山撞いてもらって、自分でもそれなりに上達したのではないかなぁ、と思えるようになった。 じゃあプロに勝てるのか?と聞かれたら、とてもじゃないが、強靭なツキ+フロックイン炸裂+ナチュラルセーフティ連発状態でなければ、正直私のレベルではまだまだ勝てないだろう。 しかし・・・、しかしだ。 それでも、どこまで通じるのか? 今の自分はプロ相手にどこまで戦えるのか? プロの手のひらの上で踊らされてしまうのか? それとも少しぐらいはやれるのか? 一矢報いるぐらいのことは出来るのか? 今日の試合は自分の実力を知るには絶好の機会だと思う。 だから本気でプロをやっつけるつもりで試合に臨む。 うむ。頑張ろう。 そんなことをあれこれ考えているうちに、知らない間に手の震えが止まっていた。 ちょっとだけ深呼吸してみた。 なんだか、周りの風景がいつもよりちょっとだけ良く見えるような感じがしてきた。 暫くして店員さんが私の名前とプロの名前が呼んだ。 向こうからプロがゆっくりと台に向かって歩き始めた。 そして私も。 いよいよ試合開始。 今日この日が夢が叶う日となりますように・・・。 先ず握手。 「よろしくお願いします。」 「よろしくお願いします。」 そして、バンキング。 私の球が手前クッションの近くに止まったので、私がブレイク権を得た。 プロがラックを組み終わるのを待つ。 ふと気が付けば、物凄い数のギャラリー。 ぬ。 こんなに注目されている中で試合をした経験は・・・、無い。 プロはじっくり丁寧に、そしててきぱきとラックを組んでいる。 一発では立たなかったが、程無くしてトライアングルを台下に片付けた。 私は台に向かって立ち上がり、台の反対側に回る。 プロのラックに負けないぐらい丁寧に、キューにチョークを塗った。 失敗しないように、慎重に、確実に、そして柔らかくブレイクすることを心掛けた。そしてブレイク! プロが固いラックを組んでくれたお蔭か、球は激しく飛び散る。しかし残念ながらどの球もポケットに入らない。 最初の1番は非常に難しい配置。これをプロは簡単に入れる。 いや、プロにとって本当に簡単な球だったのかどうかは分からないが、少なくとも私には簡単そうに入れたように見えた。 流石、プロ。 しかも、これだけでは終らない。次の2番へのポジションは完璧。そして2番もポケットイン。手球は次の3番の位置にするすると近づき止まる。 こんな調子で、3番、4番、5番、と・・・。 気が付けば台の上には9番と手球のみ。 そして9番はポケットに吸い込まれていく・・・。 プロ:1−0:としお 1ゲーム目はプロの裏マス。 チャンスが回って来れば、絶対に手放さない。確実に取り切る。 やはり凄い。 2ゲーム目はプロのブレイクショット。 このプロのブレイクは今までテレビやビデオなどで何回も見たことがあるので知っている。そして、非常に破壊力のあるブレイクをするプロだということも知っている。知っていたのに、私の想像を超える凄まじいブレイクを放ったのだ。 今まで見たこともないような強烈なブレイクショット! まるで手球がキューの先に吸い付いているような物凄いブレイクショット! 手球が1番にぶつかり、激しく球を飛び散らせたにも関わらず、手球まるでエネルギーがすっかり抜き取られたかのようにほとんど動かず台のほぼ中央に鎮座する。 絵に描いたような理想的なブレイクショット。 そして、1番から9番まで、順番に、綺麗に、ぜーんぶ取り切られてしまう。 プロ:2−0:としお うーん、1ゲーム目でブレイクショットをしたっきり、私、撞いていないんですけど・・・。(涙) 3ゲーム目もプロのブレイク。 やっぱり凄いブレイクショット。なんでこんな風に撞けるんだろう・・・。 しかし、何もポケットに入らない。 ん?ということは・・・、おおーっ、やっと出番だ!! しかし、1番が隠れて見えてなーい。(涙) 一度手球をクッションに入れることによって、かろうじて当てることは出来た。 しかし、本当に当てただけ・・・。 それにしてもプロの球って本当に凄い。 見ているとプロの球に見入ってしまう。 うっとりとするやら、吃驚するやら、本当に凄い。 今自分が対戦していることが本当に幸せだと思う。 と思っている間に取り切られていた。 プロ:3−0:としお 4ゲーム目もプロのブレイク。 再びノーイン! いぇ〜い、出番だ!! しかし、またもや1番が隠れてて見えてなーい。(号泣) しかも、前のゲームより難しい・・・。 先ず、ワンクッションで当てるためにはどうしたら良いか考える。 ワンで当てるならば、少しひねってクッションからはねかえったときの角度を変えなければ無理だ。このひねり具合が難しい。 次に、ツークッションで当てるためにはどうしたら良いか考える。 おっ、ツーで当てるためのコースを一つ発見。 う〜ん、でも、非常に狭く、少しの間違いで1番以外の球に接触してしまう危険性大。 しかし・・・、これならば・・・。 慎重に手球の進む方向を確認し、中ぐらいの強さで撞く。 手球は一度クッションに入り、はね返る。 そこから20cmぐらい進んだところで、次のクッションにぶつかり、はね返る。 4番と6番の狭い間を見事に通り抜け、1番に当たる! 一番は勢い良くはじき飛ばされ、逆に手球は勢いを失いゆっくり止まった。 プロの番。 直接手球を1番に当てられるだろうが、非常に遠く、難しい配置となった。 ふふふふ。 プロはこの1番をあっさりポケットイン! はは・・・。 そして、そのまま9番まで取り切られてしまった。 はぁ、それにしてもプロの球は美しい・・・。 いや、見とれている場合じゃないぞ! でも、どうしよう・・・。 あわわわわ。 プロ:4−0:としお 今度のプロのブレイクはノーインではなかったが、1番をポケットするには非常に難しい配置。 プロはこれを入れにいくが、入れられず。 初めて見せたミスらしいミス! 台に近付き、手球と1番の位置を改めて確認すると・・・、慎重に行けば私でも1番を落とすことが出来る配置! チャーーーンス!!! 心臓バクバクしながら1番を落とす。 そしてイメージ通りの出し。 2番を落として手球はそのまま3番の方向へ。 よしよし、調子が良いぞ。 3番も何とかポケットに入れる。 そして手球は4番の方向に。 再びプロを撞かせることになったら、恐らくこのゲームもプロのポイントになるだろう。 絶対に9番まで辿り着く!そして、このゲームは頂く!!というぐらいの気合で撞いた。 5番の位置を確認しながら、4番に向かって構える。 ふと気が付くと、遠巻きにギャラリーが私たちの台を取り囲んでいるではないか。 おぉ、なんじゃこりゃ・・・。 この人たちはプロの球を見たいために集まって来たのだろう、ということは私にでもすぐに分かる。 それにしても、この視線の量・・・。 そして、4番を外してしまう。(号泣) 再び、プロの華麗な演舞が始まる。 プロ:5−0:としお スコアはプロが5、私が0。 プロが勝つためには私相手にあと2ゲーム取れば良い。しかし、私が勝つためにはこのプロを相手にあと4ゲームも取らなければならない。 ゲーム中にそんなことを考えてはいけないのだろうが、でも、考えてしまう。 (逆転勝ちは無理だろう。) しかし、それでも意地がある! (完封負けは嫌だ!) プロはブレイクで2番と3番をポケット。 しかし、1番を入れミス。 早速、私の番が回ってくる。 しかし、この配置は・・・。 手球と1番とポケットは一直線上にある。 ところが手球と1番の間に、ほんの少しだけずれたところに4番がある。 直接1番に当てることができるにはできるのだが、真正面のコーナーポケットに1番を入れるには、ひょっとしたら手球が4番にかするかも知れない。でも、かすらないかも知れない。 う〜ん、どっちだ?かするか、かすらないか!どっちだ!? 顎を台にくっつけ、手球、4番、1番、ポケットの順に睨みつける。何度も何度も視線を動かし、球の位置を自分が完全に理解するまで睨みつける。 手球。 ・・・4番。 ・・・1番。 そして、・・・ポケット。 う〜・・・。 う?よっしゃ!見えた!絶対にかすらん!! 手球は4番の右、殆ど触れそうなところを触れずに通過する筈!!! 方針が決まった。 ゆっくりと構えに入る。 キュー先を確かにポケットの方向に向け、上体を沈み込ませる。 何度か素振りをしながら、頭の中で何度も成功したときのシーンをイメージする。 そして、ゆっくりと、そして素早く手球の下を撞いた。 キュー先がいつもと違う鈍い音を立てると同時に手球は勢い良く1番に向う。4番とは接触すれすれで無事にクリア、そして1番の真正面に当たる。手球は完全に停止し、1番はポケットに直進。ぽこん、という小気味良い音を立てながら1番がポケットに吸い込まれると同時に手球が再び動き始める。 徐々に加速しながら、そして今来た道を寸分間違わず、真っ直ぐ戻ってきた。4番のすぐそば、当たるか当たらないかというところを通過。そして、元の位置を少し越えたところで手球は停止した。 う〜ん、我ながらナイスショット!グッドショット!!エクセレントショット!!! この位置ならば4番もポケットしやすいぞ♪ だが、ナイスショットの後に落とし穴があるもので、あんなに難しい1番を入れたのに、4番を外してしまう・・・。 プロ:6−0:としお プロがリーチを掛ける。 このゲームも一度チャンスがあった。 しかし、ポケットするにはあまりにも難しすぎる配置。 セーフティを選択するも、悲しいかな失敗。 わずか、本当にわずかなのだが、手球が動きすぎて隠れなかった。 残った配置は決して難しくない配置。 しかし、易しいと言う訳ではない。私ならば9回は入られるだろうが1回は外すかも知れない、というような配置。 でも、プロならば絶対に外さないだろう。1000回撞けば1000回とも成功するだろう。 これをプロは普通に入れて、ごく自然に次の球へ出す。 これが凄い! 何でもないこの平凡なショットが凄い! 非常に難しいコンビネーション、バンクショット、キャノンショット、そんな目の覚めるようなショットも確かに凄いと言えば凄い。 しかし、そんなリスクの高いショットなど必要とせず、一つ一つ確実に、見えているポケットに向かって丁寧に入れていく。 そして、次の球に出して、また入れていく。 非常に難しいショットを1発決めるより、なんでもない配置を1000回やって1000回失敗しないことの方が難しいにも関わらず、まるで何事もないかのように淡々と入れていく。 まるで熟練工の作業のようなショット。 一見地味に見えるかも知れないが、これがプロの凄さなのだと思う。 ほんと、プロの球を見ていると、「なーんだ、ビリヤードって簡単じゃん」って勘違いしてしまいそうになる。 難しい配置を簡単そうに取り切る。 本当に凄い。 プロ:7−0:としお プロの完封勝ちだ。 ゲーム開始の握手は私のほうから手を差し出したのだが、今度はプロからだった。 とても嬉しかった。 「ありがとうございました。」 運良く念願のプロとの直接対決は叶ったのだが、そこまでとなってしまった。 プロに勝つ、という私の目標は見事に玉砕した。しかも完封負けで。 結果、負け負けという結果で私の月例は終わった。 「プロに勝つ」という目標の達成は、次の機会に、ってことで・・・。 (それにしても、本当にプロは強い!) 自分より上のレベルの人と対戦するとき、その相手から受ける印象は色々あると思う。 難しい球をガンガン入れる人ならば、「上手いなぁ」と唸ってしまう。 難しい球をガンガン入れている訳ではないが、決してチャンスは取りこぼさない、確実に9番に辿り着き、着実にポイントを重ねている、というような人ならば「この人は強い!」と思うだろう。 そんな訳で、私は「上手い<強い」だと思っている。 しかし、「強い」よりも上の人がいる。それは「怖い」と感じさせる人。(決して、人相が悪いとか、大声で怒鳴るとか、挙動不審だとか、そういう意味ではない。) 相手に番を回したら負けてしまう、と思わせるような人。まるで真剣勝負のような、やらねばやられる、というような球を撞く人。 「怖い」と感じさせる人が一番「試合に勝てる人」だと思う。 いや、正確に書けば「思う」というより、「思っていた」と言うべきか。 プロと対戦して「怖い」よりも上がいることを知った。 正直、プロと戦っている間、微塵も「怖い」とは思わなかった。その代わり別の印象を受けた。 上手く言葉に出来ないのだが、あまりに差があり過ぎて、あまりに次元が違いすぎて、見とれてしまうのだ。 見とれている間、勝負のことを忘れてしまうのだ。 「上手い」より「強い」 「強い」より「怖い」 そして「怖い」より、相手の戦意を失わせることが出来るということ。 あるいは、相手に諦めさせることが出来るということ。 う〜ん、なかなかぴったりの言葉が考えつかないのだが、強いて挙げれば「魅了させる」だろうか・・・。 プロと対戦する前は相手に「怖い」と思わせるようなプレイヤーになりたいと思っていたのだが、それよりも今日のプロのような「相手を魅了させるような球を撞く人」になりたいと思った。 プロに勝つという目標は暫くおいておくとして、当面の目標を新たに決めた。 今回、私が参加した試合と言うのは、ビリヤード場の「月例」(マンスリーと呼ぶところもある)というもので、毎月決まった日にち(例えば第二火曜日とか)に開催されるもの。プロが出場することはこのお店の場合は滅多にないが・・・。(プロが所属しているお店ならプロも出場するところもあるのだろう。) 今年は可能な限り月例に出場し、『今年中に月例で優勝する!』を今年の目標にする! (そして最終的には、プロをも脅かす存在に・・・。ふふふふ・・・。) プロが次の試合を待っている間に、ちょっとだけお話をさせてもらえた。 取り方や引き方、キュー出しのことなどなど、色んな話を聞かせてもらえた。それらの中から特に印象に残ったプロの言葉を紹介したいと思う。 質問:どうして難しい球があんなに簡単に入るんですか? 答え:今まで沢山外したから。 なるほど。 プロは今まで撞いている時間の桁が違うと思う。そういうことを言ったのだろう。(実際、沢山外した、というのも事実だと思うが。) 質問:ビリヤードは楽しいですか? 答え:試合に出ても、優勝以外はみんな負け。だから、あまり楽しくない。つらいことのほうが多いから。 「楽しくない」という答えは意外。しかし、同時にすんなりと受け入れることが出来た。常に勝負の世界に身を置くのだから、当然の答えだったのかも知れない。 プロに話し掛けるときは、かなりドキドキしたが(私小心者なので(苦笑))、実際に話してみたら私のつまらない質問にも熱心に答えてくださった。ボードに図を書いて説明してくださったり、実際に空いている台を使って実演してくださったりと、余りにも熱心なのでこちらが驚いてしまったぐらいだ。 この日はプロに会えたお蔭で、とても良い一日になった。 私が今日お会いしたプロは、大阪出身で、2000年ジャパンオープン制覇を始め数々のタイトルを持ち、テレビのビリヤード番組の情報によると「ダイナマイトレフティ」という異名を持ち、そして、破壊力のあるブレイクと、どこまでも引いてしまうのではないかと思わせるような恐ろしいドローショットを持つ、あの超有名な川端聡(かわばたさとし)プロです! 本当にありがとうございました!! |
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| ◇ 結果 ◇ | ||||||||||||||||
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