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| ◆ 四度目の月例 ◆ | ||||||||||||||||
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新人戦のあの日以来、胸の中に何とも言えぬ塊があるのを感じる。 重さは多分5kgぐらい。 ずっしりと重い。 食道の下のほう、胃袋の上にあるような感じがする。 気を抜くと、こいつの重さで体がよろめく。 きっととても泥臭く、見た目は堅い粘土のような感じだろう。 新人戦で飛ばした9番の映像がいつまで経っても頭から離れない。 頭の中で似たような映像がぐるぐる回っている。 1試合目でも飛ばした。2試合目でも飛ばした。ゲームボールの9番を飛ばした。勝てた試合を落とした。 この映像とリンクして胸の粘土が鈍く振動する。 辛い・・・。苦しい・・・。そして悔しい・・・。 9番に向かって構えた途端に、今まではっきりと見えたものが見えなくなる。 7番、8番のときには分かっていた筈なのに、9番のときだけ見えなくなる。 このまま撞いたら9番はどっちに進むのか、全然分からなくなる。 慌てて構えを解く。 改めて台上を見ると、そこには9番と手球があるだけ。そして自然と、6つあるポケットの内の1つがクローズアップされる。頭の中にはもう、9番と手球と、このポケットしかない。 この風景を凝視する。 手球が9番に当たり、9番がポケットに入るイメージを作り出す。 自然と、手球を進ますべき方向が見えてくる。 これだ! キューをこの方向に合わせ、見失わないように、ゆっくりと、ゆっくりと、静かに構える。 すると・・・、突然見えなくなる・・・。 本当にこっちで良いのか? 9番は本当にポケットの方にいくのか? 全然見えない。 分からない・・・。 そして、再び慌てて構えを解く・・・。 何度構え直しても同じ結果。 何度やり直しても同じ結果。 のた打ち回りたくなる。 暴れ回りたくなる。 大声を叫びながら当り散らしたくなる。 どうしたらこの苦しみから逃れられるのか? この胸の粘土のような塊はどうやったら取り出せるのか? 分からない。 分からない。 分からない。 でも、これだけは何となく分かる。 もうすぐ月例がある。 この月例で良い成績が出せたら、いや、自分の納得できる球さえ撞けたら、この苦しみから解放されるのではないか? 藁にでもすがる気持ちで月例に出たいと思った。 これほど月例に強く出たいと思ったのは初めてだ。 月例にさえ出れば、きっと何とか・・・。 新人戦から2日後の10月16日火曜日 オークランド豊田の月例の日を迎えた。 いつもはぎりぎりでエントリーするのだが、今回は充分に間に合った。 よし。 顔なじみの人たちと話をする。 他人と話をしているときは気が楽になる。 独りでじっとしていると、胸が重くなり、苦しくなる。 それを紛らわすように、話をする。 いよいよくじ引きだ。 私が引いた番号は9番。 おっ、9番を取ったぞ、何だか縁起が良いな、今日は9番が沢山入りますように。などと言うようなことを強引に考えていた。 程なくして私の名前が呼ばれた。 対戦相手はNサカ君。今までビギナーズカップで何度も見たことがある顔だ。 キュー2本と対戦カードを手にして、Nサカ君と二人で4番台に向かった。 テーブルにブレイクキューを立てかけて荷物を置き、バンキングのために笹吉にチョークを塗っているとNサカ君が話し掛けてきた。 「遂に優勝しましたよ、今月。」 「?」 「ビギナーズカップ!」 「えっ? やったじゃん! おめでとう!」 「やっととしおさんと同じ位置まで来ることが出来ましたよ。」 「ははは。」 「としおさんと当たって嬉しいです。今日はリベンジしますからね!」 「ははは・・・。」 1試合目。ハンデは4−4。 バンキング。 お願いします、と挨拶をしたあと、すっと構えて慎重に撞いた。 ちょっと弱かったか。短クッションから1.5ポイントのところで止まってしまった。Nサカ君は0.5ポイントのところに止まった。 1ゲーム目。Nサカ君のブレイク。3番がポケットに入るが、配置が悪い。1番を狙えるポケットが無くは無いが、非常に難しい。Nサカ君は惜しくも1番を外した。1番はコーナーポケットの角に弾かれてしまって穴前1ポイントのところで止まった。手球はゆっくりと転がり、2番へと出た。 さて、私の番だ。手玉は反対側短クッション際の2番に出ているため、この位置から1番までは非常に遠い。しかもやや薄い。ちょっと嫌な厚みだ。手球が短クッションに入った後の動きを読もうとするが、フットスポット付近に散在する球をかわせるかどうか、微妙だ。 慎重に手玉の動きをイメージして構えた。撞点は半タップ上。少し強めに撞いた。 1番はコーナーポケットの真ん中に吸い込まれていった。手玉は短クッションに当たった後、勢い良くこちら側に戻ってきたのだが、途中で7番にキスしてしまった。エネルギーを失った手玉は力なくセンタースポット付近に止まった。 2番に対して十分見えるのだが、これまた非常に薄い。しかし私はこんな極薄カットは得意な筈! 4番はサイドポケットに割と近い位置にあるので、イレイチでも運が良ければ出るだろう。この2番で勝負! 何度も何度も厚みを確認して撞いたのだが、厚過ぎた。全然お話にならないほど厚い。 暫くNサカ君のプレイを見る。彼は既にもうビギナーズカップレベルではない。今月のビギナーズカップで優勝したことが頷ける。 しっかりと入れてしっかりと出している。力加減も申し分ない。球の動きを良く知っている。特にトラブルのないこの配置を軽快にテンポ良く、すぱすぱと入れてくる。 しかし、私にもまだチャンスがあった。6番を入れてスクラッチしてしまったのだ。 残る球は7、8、9の3つのみ。 7番を少し引いて入れる。もう少し引いて8番に厚く出したかったのだが、ちょっと薄くなってしまった。しかし問題はない。充分9番に出せる。力加減に気をつけよう。 慎重に慎重に狙って8番を落とした。撞いた瞬間、良し、と思ったのだが予想より手球が走ってしまった。この台のラシャは早いのか。なかなか手球が止まらなかった。9番は少しだけ薄くなったが、コーナーポケットから1ポイントしか離れていないところにあるのが救いだ。 構えた瞬間、嫌なイメージがよぎった。新人戦の二試合目、ヒルヒルで迎えた5ゲーム目でのことだ。ゲームボールの9番を抜いてしまい、カタカタで穴前に残った。相手にこれを取られて負けてしまった。 今度はどうだ。前と同じことをやらかしてしまうのか、それともあの悔しさから何か得た物はあったのか。 今度はどうだ。俺は外すのか。俺は入れるのか。 絶対に入れる。決してこれを外してはならない。 絶対に入れる。絶対に外してはならない。絶対に入れる。絶対に外してはならない。絶対に入れる。絶対に外してはならない。絶対に入れる。絶対に外してはならない。絶対に入れる。絶対に外してはならない。絶対に入れる。絶対に外してはならない。 9番はポケット角に当たり、再び同じ位置に戻ってきた。 厚く外したのだ。 Nサカ君がこれを入れた。 0−1。 2ゲーム目。再びNサカ君のブレイク。本当に気持ちが良いブレイクだ。球は3個も入り、手球は殆ど動くことなくセンタースポット付近に止まった。 再び暫くNサカ君のプレイを見る。 う〜ん、本当に上手い。難しい出しも絶妙に決めてくる。私も思わず手を叩く。 しかし、何をどう間違えたのかまたもや球を3個残してスクラッチしてしまった。 再びフリーボールを手にした。 今度こそは取り切る。 7番に対して手球を真っ直ぐ置き、1ポイントだけ引くつもりだったのがえらい引いてしまった。 8番の入れが非常に難しくなってしまった。しかもその上9番への出しも難しい・・・。 あぁ、俺ってサイテー。 ここは勝負! 芯撞きで強く8番を入れて、手球を弾かせてみた。手球は3クッションし、予想通りのラインを通って9番に向かっていった。 よっしゃ! 我ながらナイスリカバー! 9番は短クッション際、丁度真ん中のところにある。振りは約30度ぐらいであろうか。全く問題はない。スクラッチの心配もない。 これなら入れられる。 今度こそ、今度こそ、今度こそ、今度こそ、絶対に入れる。 9番はポケットではなく、クッションに当たり、再び戻ってきた。 さっきと再び同じことをやらかしてしまった。 厚く外してしまった。 9番と手球は随分と離れてしまったのだが、Nサカ君はこれを見事に入れた。 0−2。 9番を飛ばした瞬間、胸の塊が少し膨らんだ気がした。 眉間に皺が寄る。 3ゲーム目。私の出番は殆どなかった。 あわやマスワリかと思ったが、7番で番が回ってきた。しかし7番が見えない。私は精一杯当てにいった。 何とか当たったのだが、イージーな配置を残してしまった。 これをNサカ君が見事に取り切った。 0−3。Nサカ君、リーチ。私はもう後がない。 4ゲーム目。 ああぁぁぁ、ひょっとして俺はこのままスコ負けしてしまうんかな。 それはちょっと嫌だな。 でも、もう2回も9番を飛ばしている。 9番が入る気がしない・・・。 残り球が5個のところで番が回ってきた。 もう、悔しい思いはしたくない、必至になって一つ一つ、厚みや手球の通るラインを確認しながら、自分のストロークを確認しながら入れていった。 そして9番まで辿り着いた。 これは絶対に入れるぞ。配置は1ゲーム目で私が9番を飛ばしたときの配置に似ている。 久し振りにキューを9番の上にかざして厚みを測った。 ここまですりゃあ、9番は入るやろ。 いや、入るじゃない、入れるんだ! 絶対に入れる! 入れる! 入れる! ってゆーか、頼むから入って・・・。頼むから入ってくれ・・・。 いや、マジで、お願いだから・・・。 今度は9番はポケットの真ん中から穴に落ちていった。 何とか一つ返した。 1−3。 眉間の皺が少し緩んだ。 5ゲーム目。 この試合始めてのブレイク。最近ブレイクが悪いので、ゆっくりとしっかりと撞くようにしている。 ホームの球よりも軽いからなのか、Nサカ君がしっかりとしたラックを組んでくれたお蔭か、快音を残して気持ち良く球は散らばった。3個もポケットし、手球は台の中央に残り、取り出しもOK。 残る球は6つ。勿論、全部取り切るつもりで一つ一つ撞いていった。 7番まできたところで8番への出しをミスしてしまった。押して長クッションに入れてから8番に出したのだが手球が走り過ぎてしまい、フットスポット付近にある8番を狙うポケットを失ってしまったのだ。8番と手球の距離は球2個分ぐらいしかない。いや、厳密に言えばあるにはある。コーナーポケットでもサイドポケットでも狙える。もちろんバンクショットもある。9番への出しを考えながらどのポケットを狙えば良いか考えた。 外したことも考えると、サイドカットか? これならば手球と8番の距離がかなり開くはず。よし、サイドカットでいこう。 8番は見事にサイドの角にあたり、サイドポケット前に残ってしまった・・・。 しかも手球と8番は思ったほど離れず、しかもコーナーポケットに真っ直ぐの配置だ。 Nサカ君、気持ち良い撞き方で8番をずばんとコーナーポケットに沈めた。そして、9番を・・・、なんと外してしまった! 9番は穴前に残った。 流石にこれなら外す気はしない。 この9番を入れた。 2−3。 6ゲーム目。 再び私のブレイク。本当にブレイクが今日は良い。球の散り方が気持ち良い。球も入った。 しかし、1番が見えていない・・・。ま、これは仕方が無いのか? 見えていない1番を当てにいった。そのあと、暫くセーフティ合戦のようなものが続く。セーフティにいくのだが、イメージ通りに隠れないのだ。しかし入れは難しいのでやはりセーフティにいく、これが繰り返された。 私のミスでイージーを残してしまったのを発端にNサカ君が入れ繋いだ。 本当に上手くなっている。以前と大分印象が違うぞ。こんなに上手かったっけ? キュー切れは私よりNサカ君の方が上だろう。軽く撞いているのに、伸びるように引く。 Nサカ君の球に見とれていたら、気が付いたら残りはあと3個ではないか。しかも、完全に出来ている。 これをミス無くNサカ君は取り切った 2−4でゲーム終了。 どうもありがとうございました。 2試合目。対戦相手はFヤさん。 はて、この人と今まで対戦したことがあったかしら? 初めての対戦だと思う。 黒いYシャツでネクタイをしている人である。 バンキング。 撞いた瞬間にやばいと思った。思いっきり左を撞いてしまったのだ。私が撞いた9番は戻ってくるとき、フットスポットの辺りでロングラインを超えてしまった。 はぁ、何をやっているんだ、俺は。 対戦相手は良くハードショットをした。しかも、それでズバズバ入れてくる。 しかし、時々派手に飛ばした。台上を的球が暴れ回るものだから、全ての球が完全に静止するまで、どんな配置になるのか読めなかった。 私ときたら、本当に良く飛ばした。薄い球は全て厚く飛ばした。厚い球も厚く飛ばした。全部が何もかも厚かった。 そう言えば、前の試合で飛ばした9番は全部厚く外したっけ。 そんなこんなで全く良いところが無く、あっと言う間に相手に2セット取られていた。 3ゲーム目。 厚く外さないように撞いていても、やっぱり厚く外してしまう。 無理矢理少し薄めに狙ったこともあったのだが、それでも厚く外してしまう。 訳が分からない。 しかし、それでも何とかしようと必至にもがいた。 フリーボールから、6番、7番と入れ繋ぐことが出来た。8番を落として、ほぼイメージ通りに9番に出した。 そして、そしてだ! イメージ通りに9番に出したのにだ! この9番を厚く外した! ぐ・・・。 0−3。 4ゲーム目。 相手が7番を落としてスクラッチ。 8番はセンタースポットに、9番はコーナーポケットから0.5ポイントのところ、長クッションにタッチして止まっている。 取り切れるかどうか不安でたまらなかったが、何とか取り切ることが出来た。 1−3。 5ゲーム目。 私のブレイク。ブレイクショット自体は申し分ない。満足のできるブレイクだ。 右側コーナーポケットに同時に2個、球が飛び込んだ。しかし1番が見えていない。 1クッションで当てにいこうとした。手球をひねってクッション後のラインを調整したつもりだったのだが、手球は芯撞きのようなラインで1番を避けていってしまった。 そして、なんと、フリーボールから相手が全て取り切った! 1−4。 どうもお疲れさまでした。 ありがとうございました。 俺は何回9番飛ばした! 今日もやったのか! 新人戦と同じことを今日もやったのか! と聞いているのだ!! 本当に悔しい。 悔しくて悔しくて仕方が無い。 キューを買ってからもう4年になる。 俺はこの4年間、一体何をやっていたのだ。 いっそ、思いっきり泣くことが出来たら良かった。 大声を張り上げ、涙が枯れるまで泣きたいと思った。 胸の塊、どうやったら・・・。 |
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| ◇ 結果 ◇ | ||||||||||||||||
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