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とし歴
◆ 三度目の月例 ◆
 もうすぐ9月の第三火曜日がやってくる。この日は言わずと知れたオークランド豊田の月例の日である。
 先月はよりによって月例の日に台風11号が愛知県を直撃したので出場を見合わせた。月例の時間は豊田市や岡崎市は台風11号の暴風圏内だったのだ。こんなにタイミングどんぴしゃりで直撃するだなんて・・・。まったくもう、予定されていた出張がなくなったから出られると思ったのにー!
 よって2ヶ月振りの月例となる。いや、試合に出場すること自体、2ヶ月振りだ。久し振りの試合だ。うー、うずうずする。今度こそは何としてでも出たい! いや、絶対に出るぞー! おー!!
 出来るならば月例への出場を確固たるものにしたい。しかし、台風等の天候悪化は防ぎようがない。せいぜい照る照る坊主を作るか、お天道様にお祈りを捧げるのが関の山だろう。仕事の所為で出られなかった、なんてことは止めたい。急な仕事を断るために何か大義名分が欲しい。さて、何か無いものか。
 うーむ。
 何か良い考えは・・・。

 ぽくぽくぽくぽくぽくぽくぽくぽく・・・。
 ちーん。
 ひらめいた!
 ふふふふ、我ながら妙案である。名付けて「歯医者があるので帰ります作戦」!
 月例の前に歯医者の予約を入れてしまうのだ。そして虫歯を削ったあとに月例に出るのだ。ひょっとしたら歯を削ったことによって何か悪影響を及ぼすことがあるかも知れぬが、そんなことはどうでも良い。月例に出なくては話は始まらないのだ。
 ふふふ。完璧過ぎる。



 9月18日第三火曜日。
 遂にオークランド月例の日がやってきた。あとは時間がくるのを待つだけだ。
 もう台詞は決めてある。時間になったら少し上ずった声で「あっ、いけね!もう歯医者の時間だ!帰らなきゃ!!」と言おう。そして、ささささーと帰るのだ。
 早く時間がこないかな〜。

 「ちょっと良い?」
 あっ、課長、なんですか? あっ、言っておきますけどね、前々から言っているように今日は歯医者の日ですから絶対に上がらせてもらいますからね。
 「うん、知ってるよ。でもこの基板のチェック、どうしても今日中に誰かがやらないといけないんだ。明日の朝一で納入だからね。もし出来ないんだったら他の人にやらせても良いよ。じゃ頼んだよ。すたこらさっさ〜。」
 なんぢゃそら!
 おいおいおいおい、しゃれにならんがな〜。
 あぁ・・・、行っちゃったよ。
 ったくー、課長めー。

 完璧なミッションだと思っていたのだが、まさかこんな形で無理矢理仕事を頼まれるとは思わなかった。敵も百戦錬磨だ。侮れない。
 なーんて感心している場合ではない!
 あー、もう、急いでやらなきゃ、急いでやらなきゃ。
 あせあせ。



 ああ!
 もうこんな時間だ!
 あと10分で試験と、計測と、報告書の作成を終わらせなきゃ歯医者に間に合わない!!
 不可能か?
 いや、不可能と思ってしまったら、その時点で本当に不可能になってしまうんだ。
 自分を信じるんだ。
 俺には無限の可能性が詰まっている!
 そうだ!
 俺ならやれる!
 俺ならやれる!
 俺ならやれるんだ!!
 10分ありゃ上等だ!!
 やってやろうじゃねーか!!

 しかし、それにしても、この試験装置、なんでまともに動かねーんだ、うがっ!
 一体誰がプログラムしたんだ!!
 あっ!
 俺だった。
 ちっくしょー、バグだらけじゃねーか。
 あと5分でプログラミングと、試験と、計測の報告書の作成を終わらせなきゃ間に合わない!!
 不可能か?
 うむ、不可能だな。
 絶対に無理無理。
 煙草でも吸ってこよーっと。



 喫煙所から携帯で歯医者に電話を掛ける。今日はキャンセルして別の日に予約した。
 あー、なんだか悪いことしちゃったな。
 知り合いのところだけに、余計に罪悪感が募る。
 歯医者の予約と違って月例はキャンセルして別の日に、なんてことは出来ない。月例は待ってくれない。
 せめて月例には出たいのだが・・・。
 仕事の量を考えると、まともにやったら到底間に合わない。
 自力でやるよりも、ここはやはり誰かにお願いするしかないか。
 う〜む。
 頼みにくいし、気が進まないんだよな〜。
 もうちょっと頑張ってみるか。

 月例の受付は午後7時30分からで、開始は午後8時。最悪でも8時までに着かなければならない。
 となると、逆算すると6時30分までに退社しなければならない。
 あと30分か。
 よっしゃ、頑張ろう!
 30分頑張ってそれでも駄目だったらお願いすることにしよう。



 そして40分後。

 うぎゃ〜、やっぱり出来ないよ〜、無理だよ〜、しかも頼める人がどっかに行っちまっていね〜!
 さっきから探しているのに〜、どこへ行っちまったんだよぅおぅおぅ。
 あー、うー、どうしようどうしよう。
 ・・・。
 ちぇっ、今月は諦めるか・・・。

 私が諦めかけたそのとき、実験室の出入り口の向こうから誰かがくる気配がした。
 ひょ、ひょっとしてM村さん?
 と思ったが、全然知らない人だった・・・。
 はぅ。
 と思ったその時! その知らない人の向こうにM村さんの顔がにょきっと現われた!!
 あっ、居た!
 M村さ〜ん、探していたんですよぉ〜、あのですね、これこれこういうわけでお願いします! それじゃ!!

 あっけにとられるM村さんを背にし、そのままダッシュで下駄箱へ向かった。
 門を出てから駐車場まで必死で走った。前を歩いている人がみんな振り返った。
 少しよけてくれたそのあと、恐らく走る私の背中を見つめながら、「何であんなに急いでいるんだろう、さてはデートか?」と思われたに違いない。
 そんなどうでもいいことを考えながら必死で走った。
 結局、会社を出たのは午後6時50分。
 さぁ、間に合うか?!



 午後7時30分。
 間もなく我が家だ。
 本当ならば夕食を食べて着替えてから行きたいのだが、そうも行っていられない。
 マジで時間がない!
 オークランドまで30分かかると言うのに・・・。
 キューケースだけ取ってきて、そのままオークランドに向かおう。
 さっきの全力疾走でかなり汗をかいたから、本当は着替えたいんだけどな・・・。

 よっしゃ、着いた! 自宅玄関前に車を停めてダッシュ! ・・・と思ったら、中から妻が出てきた。
 「はい、キューケース。スペアシャフトも入れたよ。これはおにぎりとお茶。」
と言いながらキューケースと紙袋を差し出した。
 「安全運転で行ってきてね。頑張ってね。あっ、お茶の入っているペットボトルはまた使いたいから捨てないでね。」
 再び車に乗り込み、イグニッションを回してエンジンに火を入れアクセルを踏んだ。

 とある交差点で赤信号に引っ掛かった。
 信号待ちの間、おにぎりに手を伸ばした。
 妻に感謝しながらお米の一粒一粒を噛み締めた。
 本当に嬉しかった。

 今朝から強烈な腹痛に襲われ会社を休んだ妻は、応援には行けないと言っていた。(妻の名誉のために断っておくが、今日の腹痛の原因は決してお菓子の食べ過ぎではない。)
 しかし、おにぎりを作って待っていてくれた。
 しかも、おにぎりとキューケースを持って、玄関先でじっと待っていてくれた。
 私にとってはそれだけで充分過ぎる応援である。

 前回も前々回も1勝2敗の予選落ち。
 今回はそれよりも前に進めそうな気がした。

 午後8時ぴったり。
 オークランドに着いた。
 間に合った!



 慌ててエントリーを済ませた。
 次は練習だ。
 空いている台は無かったのだが、知っている人がいたので背後に回り、無言のプレッシャーを与え続けた。
 「あっ、としおさん。・・・、・・・、練習します?」
 「えっ、いいの、Nイ君? 悪いなぁ。じゃ、お言葉に甘えて。」
 センターショットを何球か撞いた。
 よし、そんなに悪くないぞ。

 そうこうしている内にくじ引きが始まった。私が引いた番号は17番。暫くは試合はなさそうだ。
 次に、ルールの説明が行われた。今回の参加者は38名だそうだ。かなり多いぞ。
 名前が呼ばれるまで、MオさんやOさんとお話をする。
 Oさんに今月のビリヤード誌にスヌーカーのセットアップについての記事があることを聞かされる。
 スヌーカー・・・、一度はやってみたいと思っている。そう言えば豊田市にスヌーカー台が置いてあるところがあることを思い出した。今度、行ってみようかな。



 予選1試合目。
 対戦相手はTさん。ブラジルの人らしい。体が大きくとてもたくましい腕をしており、Tシャツの袖が弾けそうだ。腕が太いので握っているキューがとても細く見える。

 バンキング。
 弱過ぎた。強めに撞いたつもりなのだが、全然合っていない。

 1ゲーム目。相手のブレイク。
 偶球が落ちたが取り出しが難しい。1番は見えているのだが、狙えるポケットがない。バンクかコンビかキャノンに行くしかないが、どの選択も非常に難しい。
 これは悩むところだな、自分だったらやはりここはセーフティかな、と思っていたら、相手はもう撞いた。それもかなり強く。
 勢いのある手球と1番は周りの球たちに激しくぶつかり、一斉に台上を動き回った。
 え? 何、何? なに?? 一体何を狙ったの??? 
 あ、ひょっとしたら、まさか、フロックインを狙ったの? ・・・かな。
 ビギナーズカップならこんなプレーヤーに当たっても、特に何とも思わないのだが・・・。



 さあ、私の番だ。台上をぐるっと見回す。1番はポケットに通っているのだが、手球からは遠くてしかも振りが嫌らしい。頑張ったのだがポケットの角に弾かれてしまった。そして、かなりいやらしい球が残った。
 相手はこれをまたもやノータイムで撞く。先程と同じようなハードショット。殆どの球が動き回った。
 再び私の番が回ってきた。

 ラッキーなことに1番から2番への取り出しはそれほど難しい配置ではなくなっていた。
 慎重に1番を沈めて2番へ出し、そのままその調子でコツコツと落としていった。
 バンキングのときは余りの不甲斐なさに情けなくなったが、ゲームが始まればそれほど調子は悪くなかった。しっかりと狙ってしっかりと構えてしっかりと撞いた。
 順調に6番まで落としたのだが、7番への出しが悪かった。予想以上に手球が走ってしまった。長クッション際にある7番をカットでコーナーポケットに入れてバタバタで出したかったのだが、長クッションを一往復させるつもりが半往復しかしなかった・・・。
 うー、一番出したくないところに出てしまった。
 入れにいきつつ抜いたときは配球が悪くなるように、アンドセーフティ気味に撞いた。
 8番はポケットしなかったが手球はイメージ通りのところに出た。遠い上に振りもかなり嫌らしい配置となった。
 相手はなんと、信じられないことにこれをまたもやノータイムで撞いた! 8番は見事にポケットイン! 9番へも一応なんとか出た。相手は9番に向かい、当然のようにこれまた電光石火の早さで撞いた! 9番も見事にポケットイン!!
 なんじゃ〜!! 何者なんじゃ〜!!



 2ゲーム目、慎重にラックを組み椅子に座る。そしてブレイクに向かう相手をじっくりと観察してみた。
 キューは1本しか持っていない。デザインからして、う〜ん、どこのメーカーのキューだろう・・・。そんなに高そうな感じはしないな。
 実はまだ、相手が初心者なのか上級者なのか、分からなかった。
 入れの強さは信じられないほど強い。難しい振りだろうが、ロングカットだろうが、ノータイムで構えて撞いて、バスバス入れまくっている。イメージボールとかコンタクトポイントとかエイミングポイントとか見越しとか、そんなのは全く考えておらず、野生の勘のようなものだけで入れまくっているようにしか見えない。
 しかし、ゲームの組み立てを考えると、明らかにフロックイン期待のショットが多く、とても上級者とは思えない。

 これほどにまで早いリズムで撞く人は初めてだ。兎に角早い。
 私が球を外したとする。相手は外したと分かるや否や椅子から立ち、さささーと手球が止まるであろう位置に入り、構えて撞くのだ。この間、私はまだ椅子に向かって歩いている最中だ。相手が外したのであれば私は椅子に座ることなく、そのままきびすを返し、台に向かうのだ。
 これほどにまで早いリズムの人も初めてだが、これほどにまでやりにくい相手という意味においても、こんな相手は初めてだ。
 自分が知らず知らずのうちに相手のリズムに釣られてしまうのだろうか。

 自分のリズムで撞けなかったような気がする。
 相手のリズムで撞いてしまったような気がする。
 途中で気が付いてはいたのだが、自分の撞き方ではないということは分かっていたのだが、どうしても元に戻すことが出来なかった。
 周囲の影響に左右されず、常に自分のペースで撞くことが出来ればこんなことにはならなかっただろうに。



 2ゲーム目は3個残したところで外してしまい、相手に取り切られてしまった。
 3ゲーム目も同じく3個残して、そこから相手に取り切られた。
 相手は終始一貫して自分のリズムで撞いていた。最後まであの超高速リズムを保っていた。

 これで相手のリーチだ、もう一つも落とせない、と思いながらラックを組もうとしたら、通訳と思しき人がやってきて「3ゲーム取ったからこっちの勝だよ。ほら、スコアカードにも「3」と書いてある」と言う。
 本当だ、「3」と書いてある。いつから3セットマッチになったんだ?
 今一つ納得できなかったが、取り敢えず「ありがとうございました」と言ってその場を去った。
 待合所に戻って周りの人に聞いてみたら、今日は参加人数が多くて予選は1セットダウンにしますってルール説明のときに言っていたじゃーん、と言われた。
 あっ、そうなんだ。
 聞いていなかった・・・。
 ルール説明はちゃんとしっかり聞きましょう。



 予選2試合目。
 対戦相手はMオさん。私と同じのホームの人間だ。
 Mオさんは入れが強い。出しも上手くなってきた。これは気が抜けない相手だ。
 台は16番台。待合所から一番近い台が対戦の場となった。

 バンキング。
 また負けた。本当にバンキングが合わない。う〜ん。

 1ゲーム目。
 Mオさんのブレイクを見て吃驚した。9番が一直線にフット左側コーナーポケットに向かっているではないか!
 うおぉぉーやべーーー、やべ、やべ、やべーーー、頼むで止まってくれ〜〜〜ぃ!
 ポケット寸前!というところまで来たのだが、ここで止まった。
 ふぃ、助かった・・・。

 Mオさんのブレイクはノーイン。ピンチからいきなり大チャンスへ変身!
 頑張るでー、頑張って9番落とすでー。
 椅子から飛び出し、小走りして台に向かった。
 手球はセンタースポットよりも1ポイントヘッド寄りのところ、1番は左側サイドポケットよりも1ポイントヘッド寄り、長クッションから球1つ分浮いたところにある。
 1番を入れるのであればバンクしかない。サイドバンクを狙えば、外した場合1−9コンビを決められてしまう可能性が高い。コーナーバンクは無理だ。7番と8番がコースを塞いでいる。
 キャノンで9番インはどうだろう。1番と9番を結ぶ線に障害はない。長クッションと並行に手球を走らすことが出来れば9番に当たる。9番に当たりさえすれば落ちるだろう。
 よし! 決めた! キャノンショットだ!!

 手球と1番を結んだ線と、1番と9番を結んだ線はほぼ直角だ。球半分の厚みで思いっきり引いたとき、私の場合、手球は直角方向に進むということを幸いにも知っていた。
 あとはちびらないように、スパーンと撞くだけだ。
 慎重に構えて何回かキューをしごいた。
 手球が長クッションを這うように動き、そして9番に当たるシーンをイメージした。

 そして、・・・、撞いた。



 笹吉が手球に使命を与えられる時間は刹那。
 笹吉と手球が接している間、手球は徐々に加速していく。
 遂に手球は笹吉の手から離れた。
 手球は確かに1番に球半分よりほんの少しだけ厚く当たった。
 ここまで狙い通り。
 ここで手球の命の半分は1番に与えられた。
 手球に残った半分の命は何か。
 それは「9番に向かって真っ直ぐ進め」だ!

 手球は引きの回転で僅かにカーブし、長クッションと並行に走り始めた。
 しかし、引きが少しだけ足りない。
 少しずつ長クッションに近付いている。
 丸で長クッションに引きずられているかのようだ。
 遂に、あと半分のところで長クッションに当たってしまった。
 しかし、笹吉はもう一つの命を手球に与えていた。
 それは「長クッションにぶつかっても9番に向かえ」だ!

 手球は僅かに加速し、長クッションを離れた。
 あとは9番に真っ直ぐ向かうだけだ。
 障害になるものは何もない。
 手球は見事、9番に命中。
 9番はスコーンとポケットに入った。
 そして、役目を終えた手球はその場に静かに止まった。

 おー、良く決まったな、あのキャノン、我乍らよーやったわ。
 と思っていたら大きな拍手の音が聞こえた。
 待合所で試合待ちの選手からだ。みんな、見ていたらしい。
 拍手を浴びるのは何だか気持ち良い。
 取り敢えず、ガッツポーズなどしてみた。
 いぇー!



 2ゲーム目。
 Mオさん、本領発揮か。
 入れが冴えている。
 しかし、罠があった。
 長クッション際、コーナーポケットから2ポイント離れてる8番を入れて、押しで短クッション際の9番に出したつもりがスクラッチしてしまった。
 OKを貰い、2−0とした。

 3ゲーム目。
 残り7番8番9番としたところでMオさんのファールによりフリーボールを貰う。
 貰ったは良いが、7番と8番が近過ぎて7番を入れるポケットが無い。
 仕方がない、セーフティに行こう。
 ちょん、と撞いて手球を8番の裏に隠したかったのだが、甘くなってしまった。直接7番に当てられる配置を渡してしまった。
 Mオさん、慎重に撞く。一瞬7番ポケットか!と思ったが、穴前で残ってしまった。
 ここから7番を入れて、8番をサイドカットでねじ込んで、9番はちょっと嫌らしい振りになってしまったが、なんとか入れることが出来た。
 3−0で勝つことが出来た。



 予選3試合目。
 今度の相手はKハタさん。ビギナーズカップ時代からこのオークランドのHTで何度も対戦している相手だ。
 いつもは知っている相手だとやりにくいなぁ、と思うのだが、今日は逆だ。
 1試合目で当たったTさんのことを考えると、今日は良く知っている人のほうがやり易い。

 バンキング。
 やっぱりダメ。全然ダメ。お話にならない。
 今度、バンキングの練習もせにゃあかんな。
 バンキングがこんなに下手で、出しが上手くなる訳がない。

 1ゲーム目。
 途中でKハタさんが外し、そこから何とか取り切ることが出来た。
 但し、8番への出しを間違えてしまった所為で、8番はイレイチ、9番はバンクショットとなってしまった。
 1−0。

 2ゲーム目。
 遂にやらかしてしまった、9番飛ばし!
 9番にちゃんと出したんだから、入れろよ!! と自分に怒る。
 残りは渋かったのだが、流石Kハタさん、しっかり入れた。
 1−1。

 3ゲーム目。
 Kハタさん、9番入れてスクラッチ。OKを貰う。
 Kハタさんには悪いが、これでリーチだ!
 2−1。

 4ゲーム目。
 9番にしっかりと出して、9番を飛ばす。
 ほとほと自分が嫌になる・・・。
 Kハタさんが取り、ヒルヒルになった。
 2−2。

 5ゲーム目。
 ヒルヒルになったことでやっと自分の中のスイッチが「横着モード」から「真剣モード」に切り替わったのだろうか。
 難しい球をしっかりと入れ繋ぐことが出来た。
 9番に向かって構えたとき、2ゲーム目と4ゲーム目で9番を飛ばしたシーンを思い出してしまった。
 一回構えを解いて目を閉じ、悪いシーンを頭から取り除く。
 そして目を開き、もう一度構える。
 そして撞いた。
 9番は左側いっぱいいっぱい、一瞬焦ったが、何とか入った。

 3−2で勝った・・・。



 ここまで来てやっと気が付いた。
 予選で2回勝てば決勝だということに!
 今日の今までの成績は、負け勝ち勝ちだ。
 おっ、2回勝っているぞ。
 おおお! 初めての決勝トーナメント進出だ!!
 うーん、そうだったんだ、そうかー、この私が決勝トーナメントにねぇ・・・。

 初めての月例では勝ち負け負けで予選落ち。
 二度目の月例では負け勝ち負けで予選落ち。
 どうしてもあと一歩足りなかった。
 月例にはA級もSA級も出場する、ということを考えれば、なかなか勝ち進めるものではない。
 しかし、今回は初めて決勝トーナメントに進出することが出来た。
 うーん、嬉しい・・・。

 決勝トーナメントに向けて改めてくじ引きが行われた。
 対戦相手は、なんと、つい昨日このHPの掲示板で「対戦したくないですね・・・」という書き込みをしてくれたNイ君。
 予選の勝者ゾーンでならばまだしも、もう負けが許されないシングルの決勝トーナメントであいまみえようとは。



 1ゲーム目。
 「対戦したくないですね」と言っていたNイ君には悪いが、やはりよく知っている人が対戦相手だとやりやすい。
 ちびることもなく、自分のリズムで気持ち良く撞ける。
 うーん、調子が良いぞ!
 途中から私が取り切った。
 1−0。

 2ゲーム目。
 Nイ君もなかなか調子が良さそうだ。さくさくと入れいている。
 しかし、痛恨の9番スクラッチ。
 2−0。

 3ゲーム目。
 先の轍は踏まないとばかりにNイ君。
 今度はしっかりと9番を入れた。
 2−1

 4ゲーム目。
 7番がなかなか入らない。7番の殴り合いが続く。
 7番は短クッション際、手球は反対側の短クッション際。
 お互いにカットしようとするのだが、薄く抜いてしまい、同じ配置を相手に渡すという展開が続いた。
 ここで私の集中力が切れてしまったのだろうか。自分でも信じられないほど7番に厚く当たってしまった。
 そこからNイ君が取り切った。
 2−2。追いつかれてしまった。

 5ゲーム目。
 今度は8番がなかなか入らない。8番の殴り合いが続く。
 さっきと同じような展開。
 私がイージーを残してしまったところからNイ君が取り切る。
 本当にさっきと同じような展開・・・。私には学習能力が無いのか。
 2−3。
 Nイ君、リーチ。
 私は、ピンチ。

 6ゲーム目。
 もう1ゲームも落とせない。
 しかし、もう一つ球に気持ちが入らない。
 自分自身、いい加減に撞いているつもりは毛頭ないのだが、だがしかし、自分はいい加減に撞いているのではないか、という疑問が心の中にあった。
 訳の分からないもやもやした気分の中、私は撞いていた。

 8番をカットで入れた。
 イレイチではない。出しも考えて撞いたのだが、9番に出なかった。
 短−短間のバタバタで9番に出すつもりだったのだが、反対側の短クッションにすら届かなかったのだ。
 非常に難しくて遠い配置にしてしまった。
 9番を抜いて、イージーをNイ君に渡す。
 Nイ君は見事、9番をポケットに沈めた。
 これで2−4。
 負けてしまった。



 私とNイ君が殴り合いの泥試合を演じている中、隣の台では私が予選1試合目で当たったTさんと、このお店の店長さんが撞いていた。
 店長さんはTさんのことを「とても上手いですよー!」とべた褒めの様子。
 あのTさんはやっぱり腕の立つ人だったんだ。
 そうだったんだ・・・。

 今日のHTで2回負けた。
 負けたそれぞれの試合で得るものがあった。

 Tさんとの試合では自分のリズム、ペースを守ることの大事さと難しさを気付かされた。Tさんの超高速ペースに乗ってしまった。
 Nイ君との試合でも同じく、自分のリズムで撞けていなかったように思う。
 例えば、普段なら構えてみたときに何かおかしい、と感じることがあれば、一度構えを解いてもう一度最初から狙い直して構えるのだが、Nイ君の試合ではそういうことをしなかった。
 構えたときに違和感を感じたとしても、その違和感を排除してしまい、そのまま撞いてしまっていた。その結果外すことが多かった。
 特に的球がポケットから近い球については、ろくに振りや厚みを確認せず撞いていた。
 こんなんじゃダメだ。

 対戦相手のペースに呑まれてはならない。
 試合が長時間に渡っても、自分の撞き方を崩してはならない。

 自分の撞き方を守ること!
 何があっても、だ!



 キューを畳み、帰り支度をしながら、ふと携帯電話を手にしてみた。
 不在着信が3件も入っている。
 ひょっとして・・・、相手は、ひょっとして・・・。
 あぁ、非っ常ーーーに嫌な予感がする。
 無茶無茶嫌な予感がするぅーー。
 着信履歴、見たくねー。
 恐いよー。
 でも、見ない訳にはいかないよなー。
 恐る恐る着信履歴を確認する。
 あぅ。
 やはり課長だ。
 あっ、M村さんからも入っている。
 あぅ・・・。
 電話に出なかったこと、なんて言い訳しよう・・・。

 あっ、歯医者で携帯の電源を切っていました! と言おうか。
 いや、そういう場合は「電波の届かないところか・・・」というアナウンスが流れるからばれる。
 あっ、マナーモードにしていて気付きませんでいた! と言おうか。
 それも何だか無理がある・・・。
 うーむ。
 何か良い考えは・・・。

 ぽくぽくぽくぽくぽくぽくぽくぽく・・・。
 ぽくぽくぽくぽくぽくぽくぽくぽく・・・。
 ぽくぽくぽくぽくぽくぽくぽくぽく・・・。
 ぷしゅぅ。
 ひらめかない・・・。

 うーん、どうしよう。
 どうしようったらどうしよう。



 ぐすん。
 次の日、会社で怒られた。

◇ 結果 ◇
大会名 :オークランド月例
日時 :2001年9月18日火曜日
場所 :豊田オークランド(豊田市)
フィー :2000円
ルール :SA6、A5、B4セット先取、予選は1セットダウン
 USナインボールテキサスエキスプレスルール、シュートアウトなし
 予選ダブル、決勝シングル

参加人数 :38名
成績 :負け勝ち勝ちで予選突破、決勝一回戦で敗れる