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| ◆ 二度目のベスト ◆ | ||||||||||||||||
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2001年の春の東海クラブマスターズは愛知県で行われた。このときは出場しなかった。 前の週に行われた春の新人戦の試合内容があまりにも悪くて自信を喪失してしまったことと、マスターズにはC級戦がないことが理由である。つまり、男ならばB級戦以上にエントリーしなければならないのだ。(因みに、女ならばL級がある。)もし出場するならば自分がどんなにも「まだまだC級です!」と思っていても、大勢のB級を相手にスクラッチで戦っていかなくてはならない。またもや、へんてこな球を撞いてしまい、更に自信を失ってしまうことが怖かった。本当に出たくないと思った。 しかし今度は違う。 三河ジュニアに出場し、戦績こそ新人戦と同じく負け負けとなってしまったが、それでも手応えを掴んだからだ。 「ひょっとしたらB級戦に出ても恥ずかしくない球を撞けているんじゃないか?」 「もうちょっと頑張って練習すればもうちょっと勝てるんじゃないか?」 「一番調子が良いときだったらもう少し上まで行けるんじゃないか?」 勘違いかもしれない。ただの自惚れかもしれない。 でも、そうじゃないかもしれない。本当に上手くなったのかもしれない。技術面でも精神面でも少しぐらいは成長したのかもしれない。 でも、やっぱりそうじゃなくてただの勘違いかもしれない。 でも、上手くなったのかもしれない。 でも、勘違いかもしれない・・・。 う〜む・・・、どっちなんだろう・・・。 それを確かめたかった。 マスワリもまだ出したことがない。(裏マスは1回だけある。)ボーラードアベレージも1年前と比べて、たった5しか上がっていない。(50が55になっただけ。ボーラードが嫌いだからあまりやらないということもある。) 自分が上達したということを示す数字はまだどこにもない。 やっぱり勘違い? いやいやいや、そんな弱気なことではいかん!確かめたい! 三河ジュニアが終わったあと、すぐにマスターズB級戦への出場を固く決意した。 そんなある日のホームでの出来事。 「マスワリ出なきゃマスターズに出ちゃダメ。」 「えっ!ミウラさん、マジっすか?!」 「だからこの1ヶ月の間にマスワリ出しなさい。」 「え〜・・・。」 参った。 でも、可笑しな話だが、なんとかなるような気もした。今考えてみれば、不思議なことことだ。マスワリを出せそうな気がしたのだ。1ヶ月もあるんだからマスワリぐらい出るだろうと思った。 「いいッスよ!マスワリ出したらいいんですね!そしたらマスターズに出られるんですね!」 なんだったんだろう、これは。根拠の無い自信? このとき本当に、もうすぐマスワリを出せそうな気がしていた。 6月9日。 読売オープンの観戦に行った。久し振りにプロの生の球が見られる。プロの真剣な球が見られる。ずっと前から楽しみにしていたイベントだ。 しかもその上、ホームから二人出場する。 よっしゃ、応援するぞ!頑張れ、Tウチさん、Hシさん!! わくわく、わくわく。 予選会場に着いた頃には既に試合が始まっていた。 知っている人は・・・、おっ、川端プロが試合している!ん?なんか顔色が悪いような気がする。それに少し痩せたか?いや、痩せたというよりはやつれたというような感じがする・・・。体調が悪いのか?大丈夫か? おっ、隣の台でホームから出場したHシさんが球撞いている!相手はプロか・・・。スコアは・・・、おっ、なんとリードしている!すげー! Hシさんが撞いている台は幸い運営席から一番近い台だったので、充分に観戦できるスペースがあった。早速持ってきた折りたたみ椅子を広げて腰を下ろす。 このときのHシさんの球は本当に素晴らしかった。プロに一歩も引けを取っていなかった。易しい球は外さない、難しい球も入れちゃう、コンビも決めちゃう、圧巻だったのは球が残り8番9番しかないとき、8番をぴったりと9番の裏に隠すというセーフティを決めたのは本当に素晴らしいと思った。球を熟知していなければ決して出来ない技だ!玄人技だ!!かっこいー!!ひゅぅ!! Hシさんと比べたら、プロの方が球を抜いていたような気がする。Hシさんはチャンスをことごとく取り切っていった。結果、Hシさんはプロに圧勝した。 岡崎にお店を持つ所プロも同じ会場にいた。私の好きなプロだ。試合では前述したHシさんのような物凄い球はなかった。派手な出しも凄まじいキュー切れも見せることなく、さくさくと取り切っていった。トラブルに思えるような配球でも、ここしかない!ところにピンポイントで出し、そして当たり前のように取り切っていった。難しい球を簡単に取っている。やはりプロだ。次元が違う。(でも時折、フリを間違えてしまい、どーしよっかなー、というような場面もあった。プロもフリを間違えることがあるのだ。) 視線を会場のどこに移しても、レベルの高い戦いがある。 プロもアマも持てる限りの力を出して戦っている。 思いもよらないような出し、精度の高い入れ、そして素晴らしいセーフティ。 目の保養だ。 あぁ、幸せだ。 幸せ過ぎるぅ〜。 はぁ、でもちょっと疲れた・・・。 試合観戦も体力を使う。当然騒いではいけない、極力じっとしていなければならない。だから結構疲れる。 時々表に出て、買ってきた菓子パンをほおばり、お茶を飲む。 窓越しに台上で動く色とりどりの球を見ていたら・・・、なんだか段々・・・、こう、むらむらと・・・、撞きたくなってきた。 よっしゃ、ホームへ戻るぞ! 応援そっちのけで試合会場を後にした。(Hシさん、Tウチさん、ごめんなさい!!) すたこらさっさ〜。 ホームに着いて少しだけ練習したあと、早速ナインボールを始める。 おっ、なんだか調子が良いぞ、入る入る、出せる出せる、簡単な球を抜くのはご愛嬌。(私はプロじゃないから。当たり前だけど。) それにしても本当に調子が良い。 おーおーおーおー、入る入る入る、出せる出せる出せる。 なんじゃこりゃ。 あっ、そうか、分かったぞ!今の私の脳には素晴らしいイメージで一杯だ! 確かにキューを握っているのは私の手だから、当然プロのようなキュー切れは持っていない。 しかし、私の頭にはさっき見たプロの入れ、プロの出しが詰まっているのだ! 眼球の奥に、あの球の動きが焼き付いているのだ!! そして、遂にその時がやってきた! 待ちに待ったその瞬間がやってきた!! いぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜い!! うほうほうほうほ!! マンモスうれP!!(死語失礼。) ふと気付けば残りは3つ、7番と8番と9番。何度も確認をする、確かにブレイクから一度も相手に番を回していないことを。外す気がしないし出しを間違える気もしない。 7番を入れて8番に出す。フリも距離も申し分無し。完璧。思わず叫ぶ。 「マスワリまで残り2個!!!!」 そのとき、お店にいたのは六人。全員の視線が集まる。 8番を軽く引いて9番に出す。これまた完璧!また叫ぶ。 「残り1つ!!これを外したらきっと、泣きますよ!!」 キューはやや低い音で手球を押し出し、そして9番はコーナーポケットにするすると吸い込まれていった・・・。 何度もガッツポーズをした。 狭い店内をスキップで駆け回った。 腰に手を当て尻を振りながら。 周りの人たちの祝福の声を浴びながら。 そしてミウラさんとガッチリと握手。 再びキューを頭上に掲げながらスキップ。(いつまで踊ってるんだ、私は。) あーーー、でも、もう、マジで嬉しい。 本当にビリヤードを続けていて良かった。 もう、これで、きっと一生ビリヤード止められないだろう。 今まで私にビリヤードを教えてくれた人、ありがとう! ミウラさんをはじめ、そのときホームにいた人、ありがとう! 私の初マスの餌食になった友人Oダ君、ありがとう! そして、いつも私を陰で支えてくれている妻よ、ありがとう! みんなみんな、ありがとう! 遂にやったぜ!遂に叫べたぜ! 「出たぜ!マスワリ!!」 「・・・、あっ、そうだ!ミウラさん、私、マスターズに出ますからね!!」 6月12日。 マスワリを達成した後、自分の中で何か変わるものがあるのだろうか、と思いながら出場した3日後のビギナーズカップ。そこでなんと、念願の優勝を達成! 本当に何かが変わったのだろうか。初マスに続き、初優勝までするなんて・・・。 きっと今が私のビリヤード人生の中で最も調子の良いときに違いない! この調子で更なる上達を目指すのだ!! ビギナーズカップも、もう卒業だ! 次からは月例だ! よっしゃ、今度の月例、頑張るぞ! ビギナーズカップから次の月例までの一週間、何故かスランプに陥ってしまい気分が滅入ってしまったときがあった。普段のスランプよりもかなり状態が悪かったので(的球が殆どポケットに入らなかった!)流石に堪えた。アドレスに入りながらゆっくりとフォームをチェックすることによって、なんとかスランプ脱出。 6月19日。 初めての月例に出場。 結果は勝ち負け負け。 やはり上手い人は上手かった。 決して満足できる成績ではないが、最悪の成績でもない。 ま、初めてなんだし、試合の雰囲気を掴んだだけでもよしとしよう。 マスターズB級戦ではA級以上の選手は出場しないことを考えると、この月例で負け負けではなかったことと、スコ負けがなかったことは、それなりに自信になった。 よっしゃ、次はいよいよマスターズだ! 6月24日。 天気予報によると、来週の週末だけ雨が降るらしい。 雨かー、やだなー。 雨が降るとラシャが重くなるが、そんなことはどうでもよい。 一番嫌なのは、キューが滑らなくなること。 キューが滑らなくなると、そのことを気にしてしまって、球に集中しきれなくなるかもしれない。 雨かー・・・。 梅雨だから仕方が無いか・・・。 「大丈夫だよ、きっと晴れるよ。」 と妻が言った。 ん?なんなんだ、その自信は。 6月30日。マスターズ前日。 よっしゃ、靴を買いに行くぞ。試合で履いていく良い革靴を買おう! 私の革靴の靴底には穴が開いている。靴下の香りが漂ってくるのではないかと思ってしまうほど、大きな穴だ。かかとの部分のかたべりがひどく、外側が三角形に磨り減っている。このため靴底にある空洞が表面に現れてしまい、まるで穴が開いているように見えるのだ。 通常の生活では靴の裏は決して他人の目に触れることはないのだが、ビリヤードをしているときは違う。足を高く上げることが多いからだ。 今まで全然気にしたこともなかったのだが、妻の指摘で気にし始めた。 新しく買った靴はリーガル。ちょっと奮発した。 明日はこれを履いて行こーっと。 7月1日。マスターズ当日。 午前5時30分。起床。 爽やかな朝だ。一週間前の天気予報では今日は雨だった。しかし昨日の予報では晴れに変わって、しかも降水確率は0%になっていた。素晴らしい。 妻は鼻を膨らましてふんぞり返っている。どうやら、晴れ女の私のお蔭よ!と言いたいらしい。はいはい。ありがとうね。妻に礼を言う。 朝食は軽くパンとコーヒーだけにした。沢山食べてお腹を壊したらことだからだ。胃にもたれない程度の量を食べる。 ぼーっとパンをちぎりながら食べていたら、鳥の鳴き声が聞こえた。 「ほーほけきょぴよ」 うぐいすかな?今のうぐいすは昔と比べるとちょっと鳴き方が変わったな。それにしても、もう7月だぞ。まだお嫁さんが見つからないのか?頑張れよ。 「ほーほけきょぴよ」 朝食を食べ終わり、のほほんと顔を洗っていると、昨日買った靴を箱から出していないことに気付く。そう言えば、吊るしたキューもたたんでいない。 やべ。 妻に猛ダッシュで、箱から靴を出させて、キューをケースにしまわせる。 妻は怒っている。 「だから前の日に用意をしなさいと言ったでしょ!」 はい、ごめんなさい。 私は、朝慌てて用意をするから忘れ物を沢山する小学生だった。通知表にもよく忘れ物が多いと書かれたことを思い出した。 午前6時15分。間もなく仕度が終わる。 妻よ。本当にありがとうね。 Tウチさんの待ち合わせまで丁度30分ある。やれやれ、なんとか間に合いそうだ。良かった良かった。 最後にベストを着て、ボタンを上からかけているそのとき!のほほんとしていた顔が突然試合モードになった! これはやばい。 それもかなりやばい。 今まで経験したことがある。 それに照らし合わせると分かる。 これは非常にまずい事態だ。 そう!一刻一秒を争う!! 判断するまでに時間は掛からなかった。次の瞬間、私は駆け出し、ドアを開け、慌ててズボンを脱ぎ、腰を下ろした。 はっ!は、はあああぁぁぁぁ・・・ぁぁぁああああぁ・・・ぁ。 「ほーほけきょぴよ」 ふぅ。間に合った。マジでやばかった。 そして私はゆっくりとドアを閉めた。 午前6時45分。豊田市。 一時はどうなることかと思ったが、なんとか約束の時間きっかりにTウチさんとの待ち合わせ場所に到着。 良かった〜、間に合った〜、マジで遅刻するかと思った〜。 助手席にTウチさんが乗る。 午前7時15分。名古屋市。 名古屋市星が丘の三越前に到着、ここでMオカさんと合流。 Mオカさんは後部席に乗る。 これで面子が揃った。 どうでもいいことたが、さっきからなんかお尻の間が痒いのが気になる。 長時間の移動は体力を使う。運転する者も疲れるが、じっと一箇所に揺られながら座らなければならない同乗者も疲れる。 試合の前であるので、躊躇なくフルに高速道路を使うことにした。 豊田ICから名古屋IC、そして名古屋高速から東名阪に入って予選会場のある鈴鹿まで走った。 予選会場が数ヶ所に分かれていても、私たち三人のように同じ店からエントリーした場合、通常は主催者側の配慮により、同じ予選会場になるのが一般的らしい。我らの予選会場はゲオ鈴鹿店。そして決勝会場はマリオ四日市店。私はどちらのお店にも行ったことがない。どんなお店なのか、楽しみでもあり、不安でもある。 どんな人たちが参加するのだろうか。 三河ジュニアは三河で行われたが、今回のマスターズは三重県で行われるので、知っている人に会う確率は低いのかな? それとも似たようなメンバーになるのだろうか。 あー、どんな感じの試合なのか、気になる気になる。 あー、お尻の痒みも気になる気になるぅ。 そろそろSAで休憩でも取ろう。 車中では色々な話で盛り上がった。試合の直前だからだろうか、微妙な盛り上がり方だった。 試合会場の話やキューの話など、ビリヤード関連の話をした。 気の利かない私は音楽などをかけなかったので、話の合間には私が追い越すトラックの騒音と、タイヤがアスファルトを噛む音、そして時折ナビの人工音声が響き渡った。 視界の隅でTウチさんをそっと見たら、どこか外を見ている。視線を固定して何かを考えているようだった。きっとTウチさんのことだから、凄いことを考えているに違いない。 後ろに座るMオカさんをルームミラーでそっと見たら、背もたれに思いっきりもたれかかり、頭を背もたれの上に乗せ、真上を見ていた。眠ってる?いや、きっとMオカさんのことだから凄いことを考えているに違いない。でも眠っているだけかもしれない。 国道23号線が通行止めになっている影響があるのでは?と思ったが、高速道路はすいていた。日曜日の朝はこんなものなのだろうか。 鈴鹿ICで降りた私はナビの誘導どおりに車を走らせた。ナビの予想によると、あと10分で着いてしまうらしい。集合時刻まで1時間以上ある。 Mオカさんの発案でマクドナルドに寄ることにした。なるほど、腹が減っては戦えない。軽く食事を済ますべきだろう。 そうか、さっきMオカさんはきっと、マクドナルドの話をどうやって切り出すべきか、考えていたに違いない。よし、私はフィレオフィッシュとカフェオレにしよう。 車内では相変わらず、ナビの音声が響いていた。 午前9時。鈴鹿市。 マクドナルドに寄った後、予選会場に到着。ちょっと早めだがこのぐらいが丁度いいだろう。 ゲオの店内は広い。台数は20台以上ある。ラシャは使い込んであるという感じはするが、綺麗だ。ラシャについては問題無いだろう。 球は傷だらけ。かなり深い傷が無数に入っている。何をしたらこんな傷ができるんだ?ワックスも掛かっていない。 椅子がかなり少ない。これでは試合待ちの選手の休めるところが無い。 もっと困りそうだと思ったのは、試合中にキューを置くところだ。壁際のほんの少しの台にはキューを立て掛けるところがあったが、半数以上の台にはなかった。椅子と机の間、または柱の間、ドアのヘリ、火災報知機のパネルの角、自販機の角などにキューを立てるしかない。これは不便だ。 良く見たら台の配置が不揃いだ。台と台は平行に並べられておらず、微妙に斜めになっていたり、ずれている。4台縦に並んでいるところはスネークラインになっている。プレーに支障はないだろうが、バンクショットなどで隣の台のポケットは目印に出来ない。 なんだかやりにくそうな店だなー。 午前9時45分。 運営から開会を告げるアナウンスがあった。 今回のマスターズB級戦には271名が参加し、このゲオでは80名が戦う。 8名ずつ10組に分かれダブルイルミネーションで戦い、各組勝者1名、敗者1名が決勝に進む。 決勝は32名のシングルイルミネーションとなる。 次々に名前が呼ばれ、対戦カードが配られていく。Tウチさんの名前もMオカさんの名前も呼ばれた。私はあとのほうの組になったので、暫くは観戦だ。 Tウチさん、Mオカさん、頑張れ! 私も頑張るぞー! おーっと、その前に、トイレに行ってこよーっと。 お尻痒いし。 おとなしく会場の隅で邪魔にならないように試合を観戦する。 やっぱりきちんとしたか格好の人の方が多いなー。 ベストを着ている人、多いなー。 おっ、蝶ネクタイしている人もいるぞ。 あの人、上手いなぁ〜。 あっ、でも簡単な球を抜いた。 朝一だし、まだ環境に慣れていないだろうし、こんなもんなのかな? 良く見たら秀でて上手い人っていないなー。 結構みんな、簡単な球飛ばすなー。 こんなもんなんかな? それにしても本当に座るところがないなー。 早く試合にならないかな。 ・・・。 ちゃんといつも通りの球が撞けるかな。 ・・・。 なんか緊張してきた・・・。 ・・・。 やべ。さっき食べたフィレオフィッシュが・・・。 ・・・。 やべ。マジで緊張してきた・・・。 トイレに入り鍵を閉める。さっきまで押さえていた嘔吐感が噴き出す。 戻しはしなかったが、嗚咽が止まらない。 涙が出るほど苦しかった。涙が出ても止まらなかった。 極限の緊張状態になったとき、人によって様々な反応をすると思う。 心臓の鼓動が早くなるだけでなく、体中の震えが止まらなくなったり、滝のように汗をかいたり、めまいを起こしたり、そして吐き気を催したり・・・。 拳をタイルに押し付け、片方の手でポケットからハンカチを山し、握り締めた。 涙が止め処なく出る。涙が鼻からも出る。 むせながら、胸を掴み、タイルを軽く叩く。 苦しい。 早く試合よ始まってくれ。 早く名前を呼んでくれ。 対戦カードを運営席に持ってくる者がちらほら出てき始めたようだ。 ここは台数が多いので、試合の回転は速いだろう。 このとき私は、相変わらずトイレの出口付近で悶えていた。 必死になって吐き気を押さえ込む。 残念ながら、私の口の中はもう、フィレオフィッシュのタルタルソースの味で一杯だ。 勿論、私も一杯一杯だ。 早く名前を呼んでくれ〜。 若しくは、私の胃袋よ、さっさとフィレオフィッシュを消化してくれ〜。 と思ったら名前が呼ばれた。 助かった〜。 1試合目。 遂に試合が始まった。 キューを握り締め、球を二つ並べ、お願いしますと会釈をする。 やった、遂に始まった! これで少しは吐き気は紛れるだろう。 バンキング。 ありゃ、ちびった。弱すぎた。と思ったら丁度良かった。 うむ、この台のラシャは速いと見た。 1ゲーム目。 ブレイク権を得たものの、ノーイン。あっさりと相手と交代。 相手は見た感じ、私よりも少しだけ年上のようだ。きっと経験も豊富だろう。フォームも綺麗だ。とても上手そうに見えた。 しかし、入れも出しもそんなに難しくない配置で抜くことが多かった。入れが滅法強い相手は怖い感じさえするが、この相手は怖いという感じはしなかった。チャンスをもらうことが多かった。しかし、私もお付き合いすることが多かった・・・。入らないわけではないが、出ない。難しいフリを残してしまい、結局外してしまう。そんな展開が続いた。 ゲームの終盤、私は8番を入れて9番にしっかりと出した。ほんの少しだけ左フリ。これを厚く外す!心の中で絶叫。「なんじゃそら!」 手球を見ると、9番に当たったところで止まっている。ということは、9番に対して厚み100%で当たったということだ。9番は数回クッションに入って、とろとろと転がり続けている。そして、対角線側のコーナーポケットにころりと・・・。ああぁぁ。 かなりばつが悪い。対戦者に「すみません」と言う。相手は聞こえたのか聞こえなかったのか、さっさとラックを組みに行ってしまった。 はぁぁぁぁ。 2ゲーム目。 相手がポイントを取った。5番から9番まで取り切られてしまった。エンジンがかかってきたか? 3ゲーム目。 今度は私の番だ。7番から取り切った。易しい配置で助かった〜。 4ゲーム目。 相手ファールでフリーボールを貰う。椅子に座っているときは気付かなかったのだが、4番、9番、コーナーポケットの順に一直線に並んでおり、それぞれ球2〜3個ぐらいしか開いていない。コンビにいけそうだ。手球を置き何度か素振りをしていると、何故か「夢の15連コンビ」を思い出した。「この前、15連コンビをやったんだ・・・。」そんなことを思いながら撞いた。9番はゴトンと落ちた。 5ゲーム目。 相手がポイントを取った。7番からの取り切りだ。私が残した配置は難しい配置だったのだが、良く取り切った。 6ゲーム目。 相手は大分調子を取り戻してきたようだ。ミスらしいミスが少なくなる。しかし、最後の最後でまさかの9番飛ばし!残った配置はストレート。慎重に狙い、9番を落とした。 終わった。 勝った! 試合が終わって対戦カードを運営に渡す。 そしてそのまま表に出た。 胸ポケットから煙草を一本取り出し、おもむろに火を点ける。 煙草の先から上る煙を見ていたら、いつのまにか空を眺めていた。 勝ったは勝ったんだが、なんだか、運100%で勝ったような気がする。 勝った、とうよりも、勝たせてもらった、若しくは勝ちが転がってきた、という感じだ。 しかし、勝ちは勝ちじゃー、フロックインも実力のうち、9番コンビも結構結構、この調子でがんがん進むぜ!! そうか、初めて公式戦で勝ったんだ。 むふ、むふ、むふふふふ。 空は白い雲で覆われているが気温は高い。今日は蒸し暑い一日になりそうだ。 お店の隣にテニスコートがある。大勢の人がラケットを握り締めて練習している。女性はいたが、ミニスカートのお姉ちゃんはいなかった。 敗者側から試合が消化されていくので、またもや次の試合までだいぶ待った。 何気なしにトーナメント表を見る。 ん? なんと、私と同じブロックに知っている人の名前があるのを見つけた。 私のホームが初めて行ったHTで3位になったIノさんだ。 とても明るく陽気な人で、しかもとても上手い。 私が初めてベストを着て出場した、あの三河ジュニアでも会っている。そのときも同じ予選会場だったのだ。そのときは運良く(?)対戦せずに済んだ。 今回は残念ながら(?)同じブロックだ。 Iノさんも1回戦は勝ったらしい。2回戦も勝つだろう。もし、私が次の試合で勝てば、予選勝者側最終戦でIノさんと対戦することになる・・・。 Iノさんは上手いからなー、う〜ん、・・・、どうしよう・・・。 いかんいかん、こんなことは次の試合に勝ってから悩めばいいのだ。 よっしゃ、次の試合も勝つぞー! 2試合目。 バンキング。 今度はかなりオーバーした。だからこのお店のラシャは速いんだってば。ったく、学習しろよ。 1試合目ではあまりラシャの速さを感じなかったのだが、2試合目では参った。 次の的球から離れていく方向に出す場合は、まあそれほど問題はなかった。しかし、近づく方向に出すときは、逆振りになるわ、近づきすぎてポケットがなくなるわ、的球とタッチするわ、手球が的球をどついて偶然ベストポジションになるわで、ろくなことがなかった。 だーかーらー、ここはラシャが速いんだってば!!!何度ミスれば学習すんねん!しっかりしろ俺! 私はかなりミスをしたが、しかし、相手の方がより深刻だったようだ。 相手は球数が少なくなったところでのミスが多かった。出しに失敗し隠れてしまい、セーフを取りにいくも当たらず、結局私がフリーボールを貰うこともしばしばあった。それに、相手はよく9番を飛ばした。 チャンスを沢山貰ったので助かった。 それに運もあった。 ついていた。 フリーボールからの9番コンビが1回あった。 9番をコーナーに慎重に狙ったがまたもやかなり厚く外してしまい、9番がぐるぐる台を駆け回りサイドポケットにフロックインというのも1回あった。(それにしても、こういうフロックインはやっぱりばつが悪い。体を小さくして、そそくさと椅子に座るしかない。) そんなこんなで勝ってしまった。 しかも、4−0のスコ勝ちである。 記念すべき公式戦初のスコ勝ちなのだ! ふふふふふ。 しかし、どうも今ひとつ素直に喜べない。 さっきの試合と同じで、「勝った」というよりも「勝たせてもらった」という感じがする。 出来れば、ついていたから勝てた、相手が9番で飛ばしたから勝ちを拾うことができた、という勝ち方ではなく、入れちぎって勝った、相手にチャンスを渡さずに勝てた、というような勝ち方をしたかった。 う〜ん、・・・、贅沢だろうか。 これからは、勝った、負けた、という結果だけではなく、内容も求めよう。 更に上を目指すために。 3試合目。 勝者側最終戦である。これに勝てば決勝トーナメント進出だ。 勝ち上がるに従って段々と勝つことが難しくなるというが、今度の対戦相手は正に強敵だ。 やっぱりIノさんが順当に勝ち上がってきた。 試合の前にIノさんと少し話をする機会があった。Iノさんはかなり調子が良いようなことを言っていた。 Iノさんの話を要約するとこんな感じである。 ブレイクする。1番を入れるけど2番に出ない。2番をセーフティ。相手は当てるだけ。2番を入れて3番に出ない。3番セーフティ。相手は当てるだけ。3番を入れて4番に出ない。4番をセーフティ。相手は当てて見事にポケット。そのまま7番まで相手が入れて8番をガコガコで穴前に残す。ご馳走様。 ・・・、それって調子が良いのか? いや、多分良いのだろう。 出しは失敗しても次にセーフティを決めることでリカバリーできているし、チャンスの8番9番もしっかりと取り切っている。ミスせずに撞ききることがベストだが、リカバリーを成功することによってミスの被害を最小限にしている。 やはりIノさん、かなりの強敵だぞ・・・。 バンキング。 またもやオーバー。分かっていて、気をつけていながらオーバーしてしまった。 頭が命じる強さで撞くことができない。ちょっとやばい状態かも知れない。 むぅ。 1ゲーム目。 Iノさんはぶちぶちだった。何が良いって、リズムが良い。さくさくさくさく撞いていた。 さくさくさくさく、さくさくさくさく撞いているのに見とれていたら、気付いたらマスワリを喰らっていた。 うげ。 公式戦で初めて喰らったマスワリ・・・。 2ゲーム目。 今度は見ているだけではなかった。撞くことができた。しかし、続かない・・・。 それにしてもIノさんは本当に調子が良いらしい。まるで的球をポーン、ポーンとポケットに放り込んでくるかのようだ。 あらららら。 3ゲーム目。 今度も撞くチャンスがあった。7、8、9と取りきってやっと1ポイント返した。 ただし、最後の9番は二重回しサイドインという、超高等テクニックを出してしまった・・・。 4ゲーム目。 振りのない8番でミスをしてしまった。 2ポイント押せばちょうど9番に出るのだが、手球から8番まで距離がある。もし押し過ぎてしまった場合、スクラッチになる。それならばストップショットのつもりでてろ〜んと弱くつき、1ポイントだけ押して出そう、と決めて撞いたら吃驚した。8番は30度ぐらい左の方向に飛んでいった・・・。 はぁ???な、なんで???全然違うじゃん。 ミスキューした訳ではない、レストを使って撞いた訳でもない、とりわけ撞き辛かったという訳でもない。普通に構えて、普通に素振りをして、普通に撞いた。・・・つもりだった。 しかし、結果はとんでもない方向に球は進んだ。手球と的球の動きからして、恐らく球半分ぐらいの厚みで当たったのだと思う。 なんでなんでなんで??あーーーもう!! 5ゲーム目。 撞くチャンスはあったのだが、さっきの外し方が恐ろしくて、ちびりまくって全然キューが出なかった。 無理矢理キューを出そうとしたら、真っ直ぐ出せなくなっていた・・・。 1−4でゲーム終了。 4試合目。 敗者側最終戦。 ここで勝てば決勝進出。負ければ予選落ち。 最後のチャンスだ。 バンキング。 今度は上手くいった。それほど短クッションから1ポイントほど離れたところに止まった。しかし、相手の方が上手かった。ボール1個分も離れていなかった。 1ゲーム目。 相手はブレイクが上手い。しっかりと手球をセンターに残している。 そのまま7番まで取り切った。8番にしっかりと出ていたのだが、ここでミス!助かったぁ・・・。またマスワリを喰らうかと思ったぁ。 8番はコーナーポケット穴前、9番はフットスポット付近にある。丁寧に撞いて8番をポケット、9番に出す。 うむ。いい感じ。 狙いを定めて構える。 ・・・。・・・。あれ??? なんかおかしい。厚く外しそうな気がする。 でも、ここで調整をして薄く狙うと本当に薄く外してしまい、「ああ!さっきので良かったんじゃん!!」という経験を嫌というほどしてきたので、調整などせず、自分を信じて、そのまま撞いた。 そして厚く外した・・・。 2ゲーム目。 相手が9番で痛恨のミスをする。 9番は短クッション際、コーナーポケットから1ポイントほどのところにある。 手球は9番から近すぎず遠すぎず丁度良いところにある。振りは30度ぐらい。 うむ。これまたいい感じ。 狙いを定めて・・・、定めて・・・、定まらない・・・。 どこを狙ったらいいんだ??? ああ!どこを狙ったらいいんだ?! 頭の中は真っ白け。 どっちか厚くか薄くか覚えていないが、どっちかに外した・・・。 3ゲーム目。 気持ちを切り替えたい。 相手のプレーを凝視する。よく見たら、少しスローテンポで、同じリズムで撞いている。なかなか小気味良い。 この相手、やはり上手いぞ。 と思っていたら7、8、9番を残して番がまわってきた。 7番をぱつんと押して入れる。手球は短クッションに入り、センタースポット付近で止まる。 ふむ、なかなか良い出しだ。やれば出来るじゃないか。 8番も同じ。ぱつんと押して入れる。手球は反対側の短クッション付近で止まる。9番に対してほんの僅かに振りがあるが、ベストポジションだろう。 良いじゃないか!入るし出るぞ!何も問題は無い!! 狙いを定めて、ゆっくりと構える。 ・・・。・・・。・・・。 なんか入る気がしない・・・。 構えを解き、最初っからやり直す。 9番とコーナーポケットを一直線に結んだパイプをイメージし、9番と手球の接触点を見つける。手球の大きさをイメージし、手球の中心がどこを通ればその接触点で9番に当たるのか考える。 よし、大丈夫だ、これで9番は落ちる。 手球の中心が通るラインを見つめながら再びアドレスに入る。 2、3回素振りをする。 ・・・。厚く外す気がする・・・。 ちょっと薄めに修正。 ・・・。薄く外す気がする・・・。 ほんのちょびっとだけ厚めに修正。 ・・・。厚く外す気がする・・・。 ああああああああ、どこを狙っても入る気がしない。 ポケットが小さいよぅ・・・。 撞く。 厚かった・・・。 4ゲーム目。 今度は8番、9番が残っている状態で番がまわってきた。 9番への出しが少し難しい。8番を入れて、手球を押して短クッションに入れて、ひねりで長−長クッションに入れて、上手い具合に反対側短クッション際の9番に出た。 我ながらナイスショット!! こんな絶妙な出しをしつつ入れることができるんだから自信を持て! 今度こそ9番を外さないぞ! 2、3回素振りをする。 ・・・。厚く外す気がする・・・。 ちょっと薄めに修正。 ・・・。薄く外す気がする・・・。 ああああああああ、訳が分からん・・・。 撞く。 厚かった・・・。 0−4で負けた。 ゲームボールを落とした相手がこちらを向き、少しだけにっこりしながら、 「ありがとうございました。」 と言った。 私も椅子から立ち上がりながら、同時にお礼を言う。 そして、そのあと私はこう続けた。 「ナインボールなんだから9番を落とさなくっちゃ勝てませんね。はははは。」 こんなに自分が情けないと思ったことはなかった。 自己嫌悪も自己嫌悪。 何をやっているんだ俺は。 どうして、こんなに下手クソなんだ。 どうして、どうして、こんなに9番だけ外すんだ。 なんでなんでなんでなんで、なんでなんだよぅ・・・。 4回も9番を入れるチャンスを掴みながら、それらを全てそのまま相手に渡してしまった。 勝負事に「たられば」は禁物だと言うことは充分承知している。分かっている。しかし、どうしても考えてしまう。9番さえ外していなければ俺が勝ったかも知れない。 追い討ちをかけるようにMオカさんから衝撃の事実を聞かされてしまう。 さっきの対戦相手は、実は私が1回戦で勝っている相手だったのだ。 はぁ、そうだったんだ・・・。 午後4時。 店内はだいぶ閑散としてきた。 まだ試合中の人もいるが、私のホームから出場した三人の予選は終了した。 私は、勝ち勝ち負け負けで予選敗退。 三河ジュニアでは17位タイの成績を収めたMオカさん、負け負けで予選敗退。 我ら三人の中で一番上手いと思われるTウチさんは、勝ち負け勝ち勝ち勝ちで決勝進出し、決勝1回戦も勝って決勝会場行きを決めた。 おおおお!流石〜!! 運営の人によると、午後5時30分までに決勝会場に着けば良いそうだ。 まだ1時間半ほどある。お昼を取っていないからお腹もぺこぺこだ。 このゲオ鈴鹿店から決勝会場のマリオ四日市店まで30分ぐらいで着くということなので、途中でご飯にしよう、ということになった。 午後4時30分。四日市市。 決勝会場のマリオ四日市店を発見。はなかなか大きな立派な建物だ。しかし、駐車場がいっぱいだ。Uターンして食べ物屋さんを探す。 程なくしてそば屋さんを発見。 Tウチさんはお腹にもたれたらいけない、ということで消化に良さそうなとろろそばを注文。 私は、やけ食いではないが、奮発して鰻丼とそばのセットを注文した。 お茶をすすりながらTウチさんを激励する。 行けるところまで行って欲しい。(本音を言えば、優勝してA級になって、もうB級戦には出ないで欲しい。(笑)) ここで新人戦の話も少しした。 冒頭でも少し触れたが、東海地区では春と秋にC級を対象とした新人戦という大会が行われている。 前回は2月に春の新人戦が行われた。そのときの私の成績は負け負けだった。次の秋の新人戦では絶対にもっと良い成績を出してやる!と闘志に燃えている。 ところがなんと、マスターズB級戦で決勝トーナメントに進出したら新人戦には出られなくなってしまうらしい。 良かった〜。もう1回勝っちゃったら新人戦の出場資格を剥奪されるところだった。(と、無理矢理ポジティブな考え方をする。)(←本当にそれでええんか?俺。) はぁ、それにしても何て情けない試合をしてしまったんだろう。 最後の試合の9番ミスを何度も何度も思い出してしまう。 ああぁぁぁああぁぁ。 は〜。 俺の馬鹿野郎・・・。 頭を壁に打ち付けたくなる衝動に駆られるが、ぐっと堪える。 そろそろ時間だ。 決勝会場に戻ろう。 午後5時30分。 マリオ四日市店は広くて綺麗なお店だ。販売用のキューや小物も沢山置いてある。フロアも1階と2階に分かれており、なかなか広い。 店内を暫く散策した。 1階に置かれた華台は凄かった。台そのものが凄いわけではない。この台だけ様々な角度から見ることが出来るのだ。入り口から店内に入ってすぐ正面に華台があり、左手に階段、右手に受付がある。階段はまるで、華台の2辺に沿うように2階に続いている。また、階段わきの吹き抜けがちょうど華台を見下ろすのに丁度良い大きさなのだ。階段のどこからでも、2階の吹き抜けを囲う手すりのどこからでも華台を見ることが出来る。この台で試合をするとなると、必然的に多くの視線を浴びることになるだろう。 店内を見回すと、まだ試合中の人もちらほらいるようだ。ある台で、少し年配の人が撞いている。ちょっと気になったので暫く観戦。 お?おいおいおいおい、早い早い、早いなんてもんじゃない、無茶苦茶早い! ブレイクした人が5番まで落として6番でミスをする。対戦相手がそこから9番まで取り切る。という感じでゲームが進んだ。1ゲームの時間は1分ぐらいではなかろうか。 二人とも殆ど何も考えることなくすっと構えて、素振り無しか、1回の素振りで撞いていた。瞬間で狙いや手球のコースや撞点をはじき出しているのだろうか。いや、どちらかというと、狙わずに勘で撞いている、という感じがする。狙っていない、という感じがする。 私が見ていたこの二人はA級らしい。A級にはこんな球を撞く人がいるんだ・・・。 A級、B級、L級、全ての決勝戦がここで行われる。私自身、プロ同士の試合は見たことがあるのだが、A級同士の試合というのはあまり見たことがない。A級ってどのぐらいのレベルの人なんだろう。好奇心が私の心をくすぐった。 遂にTウチさんの試合が始まった。決勝2回戦である。決勝1回戦は各予選会場で行われたので、マリオ四日市店での最初の試合が決勝2回戦となる。 さっきのとろろそばが良かったのかどうか分からないが、Tウチさんがミスも少なく相手を圧倒し、3−1とリーチを掛ける。しかしここからが長かった。Tウチさんにミスが出始めた。相手はじっくり考えるタイプなのか、丁寧に丁寧に自分にリズムで撞き、ゆっくりじわじわと追い上げる。3−3のヒルヒルになった。辛うじてなんとか逃げ切り、Tウチさんが勝った。 決勝3回戦の相手は「本当にB??」と思ってしまうぐらい上手かった。そして、この時間になると殆どの選手に疲労の色が見え始めるのに長丁場の試合の終盤にも関わらず、この相手はまるで開会式直後のように撞いている。序盤はやや相手のペースで試合がすすんだ。 しかし、我らがTウチさん、負けていなかった。マスワリを決めて流れが一変した。次のゲームも何とマスワリ・・・、と思いきや9番で飛ばしてしまった。残った配置は難しい配置ではなかったが、かと言って易しい配置でもなかった。相手はこれをミス。長い待ち時間で集中力が切れたのだろうか。これをTウチさんが決めた。終わってみればスコア上ではTウチさんの圧勝。やはりさっきのとろろそばが良かったのだろうか。 それにしても、連マス9番飛ばしが勿体無い・・・。 決勝4回戦は準々決勝となる。残念ながら場所が悪かった。遠くからこっそりと見るしかできなかった。 1階の華台では好取り組みが始まったようだ。そちらを観戦する。前回A級優勝者のIカワさんとTヅケさんの試合だ。二人ともこの地方ではかなり有名なアマチュアプレーヤーらしい。(私は失礼ながら二人とも今日、初めて知った。) 今ではビデオやテレビでもプロの試合を見ることができるし、その気があれば年間スケジュールを確認して、生のプロの球を見ることができる。 もう私は、余程の球でなければ吃驚たまげることはないと思っていたが、久し振りに他人の球を見て鳥肌が立った。 Tヅケさんの番。的球は長クッションから1ポイントのところにあり、サイドポケットに近い。手球はブレイクライン上の反対側長クッションから1〜2cmぐらいしか離れていないところにある。手球と的球とサイドポケットは一直線に並んでおり、次の的球はブレイクエリア側の短クッション際のほぼロングライン上にある。つまり、引けさえすれば容易に出せるのだが、撞点が限られており引くのは至難の業だ。 これ、どうするんだろうなー、やっぱり穴振りを使ってスクラッチしないように押すんだろうか、引くのはかなり難しいよなー、なんてことを考えていたら、見事に期待を裏切られた。 キューレベルをかなり上げ、殆どジャンプショットのフォームから繰り出された手球は超低空を飛行する。寸分の狂いも無く、精密機械のような正確さで的球に直撃。一瞬僅かに浮き上がる。的球がサイドポケットのブーツに激しく叩きつけられたとき、手球はゆっくりとラシャに着陸。確かに手球が静止したと思った瞬間、突如、加速しながら戻り始めた。手球が元あった位置を通過し、丁度Tヅケさんの前で長クッションに入ったとき、Tヅケさんの顔に微かに笑みが浮かんだ気がした。そして手球は次の的球に対して適度な振りを残し、静かに止まった。 おおおおおーーー、すげーーー!!なんであれが引けるんや!!!カッコいいーーー、カッコよすぎーーー!!! 場内は拍手の嵐・・・、かと思いきや、意外に静かだった。・・・、あれ? A級はあれぐらいのことが出来て普通なんか??? Iカワさんは9番でのミスが目立った。 9番まで辿り着いたのに9番を入れられないか、9番への出しを失敗して難しいカットを外すかのどちらかだった。 結果、Tヅケさんが一方的にポイントを重ね、5−0で試合は終わった。 華台での試合が終わると周囲の人間の動きが突然慌しくなった。他の台へ向かう者、トイレへ行く者、表へ出る者、多くの人が華台の周りを交錯した。Tヅケさんはスコアシートを持って運営席へ向かった。Iカワさんただ一人が華台に残った。 Iカワさんはおもむろに立ち上がり、球溜りから9番を拾い上げて台上に置いた。9番を外したときと同じ配置だ。すっと立ち上がり、すっと構えて、すっと撞いた。9番は何の違和感も無く、静かに、自然にポケットに向かった。同じ配置を何度も繰り返す。5回やって5回とも入った。 そこへTヅケさんが戻ってきた。 「今だったら入るんだけどなー。」 二人とも笑っていた。 あ、同じなんだ。 A級の試合で優勝したことがある人でも、同じなんだ。 そう思ったら、今まで心の中にあった真っ黒な雲の間から少しだけ、青い空が見えた気がした。 Tウチさんのマスターズが終わった。柱の陰からこっそり見ていたのだが、最後は9番を飛ばしてしまい、相手に取られたようだ。 さっきの試合で力を使い果たしたか、はたまた疲れが出てきてしまったか。 しかしベスト8は素晴らしい成績だ。やはりとろろそばが良かったのだろう。 Tウチさん、お疲れ様でした。 午後11時。名古屋市。 晩御飯は三人でお寿司を食べた。Mオカさんが知っている素敵なお店だ。確かに素敵だった。トロ&生中が百円だなんて素晴らしすぎる!Mオカさん、教えてくれてありがとう!(今度妻も連れて来なきゃ。) たらふく食べて沢山飲んだので三人ともご満悦状態。 色んなことを話し合った。試合のこと、試合の会場のこと、有名な出場者のこと、好きなプロは誰だ、なんて話もした。 ふぅ、ビリ三昧の一日。 あー、幸せ幸せ。 お店を出て、車を停めたところまで10分ほど歩く。 今日は色んなことがあったな。 長い一日だったな。 公式戦で一度ぐらいは勝つということは叶えられたけど、あんな勝ち方じゃな。9番フロックイン連発だったもんな。でも、相手からまわってきた配置をしっかりと取り切った場面もあったし、ま、よしとするか。 3試合目のIノさんと当たったときのことは、まぁ、いい。Iノさんが私より上手かったのだ、強かったのだ。負けたは負けたが、それほど悔しくはない。問題は4試合目だ。あああぁぁぁ、ほんっと、情けないなぁ〜・・・。 色んなことを考えながら歩いていたら、ふと閃いた。 そうだ、そうだ、そうしよう。 「俺、A級を目指しますよ。」 それを聞いたMオカさんとTウチさんが笑った。私も笑った。 目標は高く!だ。A級になるためにはどうしたら良いのか、まだ皆目検討もつかないが、とにかくA級を目指そう! いつか、必ずA級に・・・。 |
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| ◇ 結果 ◇ | ||||||||||||||||
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